「ここで変われるんだよ、カズさん」

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「光彦さんが、どれだけ困ってるか判ってるでしょ? 私の実家からも借金した上に、せっかくお義父さまが残して下さった土地も手放して……」  アオキカズハルは前髪の隙間から目を光らせて嗤う。 「コイツんところにまだ、残ってんじゃねえかよ。コイツだってずいぶん相続したぜ」 「それを取ろうとしたじゃん!」  ミツヒコが、まあまあ、と彼の妻をなだめる。  土地の話が出たとたん、ミツヨカワの目がわずかに変わった。  信者の私有財産を寄進という名目で集めているという噂を裏づけるような、俗っぽい目線をテーブルの中間に一瞬向けた。  だが、その目はすぐに寛容な宗教家の表情に戻る。 「お話は、わかりました」  ミツヨカワは、あくまでもおおらかな物腰で目の前の哀れな三人を見つめ直した。 「奥さん、私どもにおまかせください」 「よろしいんですか?」 「オレはやだね」  アオキカズハルは言い張る。 「こんな病院に入れようったって、そうはいかねえ」 「病院では、ありません」  辛抱強く、ミツヨカワが応える。 「アナタの自由意思で、集団生活を送っていただくのです」  後ろのドアから音もなく2人、がっしりとした男たちが入ってきた。  暖かい風が起こり、彼ははっとふり返る。  と、すでに両側から腕をつかまれていた。 「まずは、お風呂にご案内して」  問答無用に、ひきずられていく。  アオキの弟も妻も、半分立ち上がりおろおろしている。  弟は、きっとなって 「何するんですか!」  とくってかかったが、ミツヨカワは慣れているのか余裕のある笑顔をみせている。 「お任せ下さい。まずは2週間、様子をみさせてください。その後、ご本人様を交えてまた、ご相談させていただきましょう」  いたずらっぽく、笑ってみせた。 「きっと、びっくりしますよ、2週間後」 「あ、ありがとうございます」  妻は、ハンカチで目を押さえながら何度も頭を下げた。 「よろしく、お願いします」 「……では書類等の確認を」  秘書が、分厚いファイルを拡げたのをきっかけに、 「すみません、私はこれで」  ミツヨカワは去っていった。  2人は立ち上がって、頭を下げた。  秘書が手続きを続けるために、2人に座るよう促した。  第一段階終了。  とりあえずエセ家族、今日は手続きだけして引き上げていった。
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