「いつ頃帰れるんだよ」

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 髪は長いままだったが、髭をあたってもらい(危険防止のためか、自分ではやらせてもらえなかった。先ほど腕を掴んでいたうちの一人が、かなりの手際の良さで髭をそってくれた。もう一人と、更にもう一人が脇で見張りに立っていた)、着替えも済んですっかり、娑婆っけの抜けたアオキさんを、後でやってきた丸メガネの男が小さな部屋に案内した。  何の飾りもない、窓もない四畳ほどの部屋だった。  一番奥には教主である男の写真が額に掲げられていた。  そこに風呂までつき合っていた二人も一緒に入ってくる。 「ここが、泊まるとこかい?」  殺風景だねえ、ときょろきょろする。 「いいえ、宿舎ではありません。指導室といいます」  向かいに座った男は、アオキにも椅子を勧めてから、小さなパンフレットを取りだしてみせた。  あとの二人は、ドアの前に並んでいる。  二人がドアの前に立つのが、ここのお約束らしい。 「修行に入られる前に、いくつかお願いしたい点がございまして、ここで確認させていただきます。細かいオリエンテーションは明日ですが、その前にいくつか」 「へえ」 「まず、もうしわけありませんが」  パンフレットの中に、小さな文字が並んでいるところを指さして、本当に申し訳なさそうに告げる。 「修行中の言動についてですが、言葉はあくまでも、丁寧にお願いいたします」  オレ、オマエ、~だ、~である、などではなく、です・ます調でお願いします、と。 「へえ」  へえ、ではなく、はい、ですね、と目の前の男が笑った。  ドアの前の二人もにこやかな目をしている。 「はい」  一応、言い直した。 「くすぐってえなあ」 「……なるべく、そういったつぶやきなども気をつけていただければ」 「はいはい」 「今後、他の信者さんとも交流が増える事と思いますが、そういう時にもお気をつけください。仲良くなられるのは、こちらとしてもたいへんうれしいのですが、あまりにもくだけた口調ですと、色々な御事情の方もいらっしゃいますし」  だったら、やっぱりルディーが来ればよかったのだ、とアオキは心の中でつぶやく。あの話し方なら一発合格だろう。 「まあ、徐々に、ですがね」  丸メガネの奥の目が、やさしくこちらを見た。  スキャンしてみようか、ほんのいっとき、彼の目線を捉える。  しかし逆に、何を考えているのか知るのがこわい。  やめた、次の機会を待とう。  アオキは目線を外してテーブルの端に目を戻した。
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