夜叉の恋

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楡磋は気がつくと暗い洞窟のような場所にひとり踞っていた。 どこから来て、どこへ行くのかわからない。 進んでいいのかわからずに途方に暮れた。 「……夜叉」 最後に見た夜叉の表情を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。 わたしの命を惜しんでくれた。慈しんでくれた。 出来ることなら夜叉のそばに帰りたいけれど、帰る方法もわからない。 「幻でもいい、夜叉に会いたい……」 涙が浮かんできて溢れそうになった時、トンネルの向こうに小さな光が見えた。 揺れる光はまるでわたしを呼んでるかのようで、一歩足を踏み出すと、誰かの、 「行くな!」 悲痛な声が聞こえて立ち止まった。 周りを見ても何も見えない。 気のせい? しばらくして、こっちに向かってゆらり歩いてくる大きな気配を感じた。 暗い中、震えるわたしの首筋に、生暖かいものがだらりと垂れて体が硬直した。 いきなり肩をつかまれて引き倒され、だらだらと何かが上から降ってくる。 よだれ!? 「いやっ!」 叫んで腕を振り回して抵抗しても、フーフーと荒い息に押さえつけられ動けない。 肩を剥き出しにされて、生暖かい息に呑まれそうになった時、 バキッ 鈍い音がして、のし掛かっていた大きな気配が吹き飛んだ。 突然、抱き起こされ抱きすくめられる。 ……そのほのかな香りを知ってる。 抱き締められた力強さに、両目から涙が零れた。 「夜叉……?」 「やっとつかまえた」 「な、んで」 わたしは死んだのに。 会えるはずもないのに。
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