夜叉の恋

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「今年も紅葉がきれいに色づいたわ」 楡磋は庭のもみじを眺め、太い幹と枝の間に誰かが立っていることに気づいた。 歳は二十歳過ぎだろうか? 銀の長い髪を後ろに結わえた男の人は、口の端を上げてこっちを見ていた。 「誰……?」 「俺の名は夜叉。この近くに住む鬼だ。鬼を呼び寄せる女がいると噂に聞いて、おもしろそうだから会いに来た」 噂通りだったな。と夜叉は笑った。 目の前にいる男の人が、鬼? 姿は人に見えるけれど瞳が不思議な光彩をしてる。青から銀に近い色。 「おまえは俺がこわくないのか?俺は人を喰らう鬼だと名乗ったんだが?」 「……怖がる?」 「逃げ出せば喰らってやろうかと思っていたんだがな」 そう言って夜叉はまた笑った。 「おまえは変わってる女だな。気に入った。またここへ来る。その時は俺の遊び相手にでもなれ」 ひとしきり笑うと夜叉と名乗った男の人は姿を消した。 数日後、ひとりの夕食を終え部屋に戻ると夜叉が酒を片手にくつろいでいた。 「夜叉……?」 「約束通り、俺の遊び相手にしてやろうと思って来てやったぞ。俺の相手ができることを光栄に思うがいい。俺は上手いから、すぐによがり声をあげるぞ」 「?……夜叉が、美味しい?よがり?」 ぽかんとした夜叉はすぐに腹を抱えて笑った。 「そのウマイじゃない。そうか、おまえには通う男はいないか。確かに鬼を呼びつける女など気味が悪い」 その通りだった。 父は鬼を呼ぶわたしを嫌い屋敷の離れへと追いやった。 「……俺も鬼だからな、わかる。何もせずとも人に忌み嫌われる」 おまえと同じだと、夜叉は庭の紅葉を見上げ呟いた。 それから時々、夜叉はここを訪れるようになった───
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