夜叉の恋

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夜更け。 楡磋は部屋に誰かが入って来た気配に気づいて慌てて涙を拭った。 「そこにいるのは、誰……?」 薄明かりの中で銀の瞳が揺れて、 「泣いていたのか?」 夜叉の指が濡れた楡磋の頬に触れた。 首を横に振る。 大丈夫、寂しくなんてない。ひとりでいるのは慣れてるもの。 「おまえはそんな風に泣くんだな……」 そっと撫でる。 「辛いならいくらでも泣いていい。俺の胸くらい貸してやる」 夜叉はそう言って引き寄せた。 温かい…… 夜叉の腕の中はあまりにも心地よくて泣けてくる。 「ありがとう、夜叉」 楡磋は心の中が少しだけ軽くなったような気がした─── それから、半月ほど経った夜。 ガサッ 庭の方から草木を踏む音がして、 「夜叉……?」 楡磋は夜叉が遊びに来たのかと思って声を掛けた。 夜叉は昼も夜も関係なく遊びに来るからきっとそうだと思って……けれど。 バキバキッ 目の前で太い柱が大きな爪で削られ、太い腕が戸を突き破った。 「きゃあっ」 「ウマソウなニオイがスル……」 赤い目をして耳まで裂けた口。 その口からはよだれが滴っている。 頭に角が二本ある体の大きな鬼だった。 「クイタイ」 鋭い爪が伸びて喰われそうになった時、 「夜叉っ!!」 思わず叫んだ。 同じ喰われるなら夜叉がいい。他の鬼なんてイヤ! 夜叉はひとりぼっちのわたしと話をしてくれた。一緒に庭の花や木を眺め、時には屋敷から連れ出しては遊びに連れていってくれた。 わたしに笑うことを教えてくれた鬼。そうやって笑ってればそれでいいと言ってくれた鬼。 「オニヨビをクラエバ、オレはモットツヨクナレル」 鬼の爪の先がわたしの震える髪に触れた。
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