夜叉の恋

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「人喰い鬼…、か」 夜叉は二百年ほど生きてきた。 鬼の寿命は長く人の寿命とは比べ物にならない。これからだって数百年は変わらぬ姿のまま。老いるのはずっと先のことだ。 それに比べ人は脆く弱く、鬼にとって人間は餌でしかない。 夜叉にとっても楡磋はいずれ喰らう餌だった。 なのに、あの時。 他の鬼に襲われた時、なぜか守りたいと思ってしまった。 すがり付き震えながら涙を溢す姿に胸が痛くて抱き締めた。 なぜ胸が痛くなったのか、いくら考えてもわからない。 「楡磋」 名を呼べばせつなくなる理由も、夜叉にはわからなかった───
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