夜叉の恋

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結婚が明日に迫った夜、やんごとなき御方は楡磋の部屋を訪れた。 「わたしはあなたが好きだ。あなたの心が欲しい」と手を握られた。 「一生あなたを大切にする」 月明かりの中、その御方は真剣な表情だった。 この人は優しい。 わたしを好きだと言って大切にしてくれる。 でも…… 「わたしは……」 正直に言おう。 好きな人がいると。 そう決心して楡磋が顔をあげた時、 外から人の叫び声と悲鳴が聞こえた。 庭の方を振り返った瞬間に、庭木に雷が落ち轟音と共に燃え上がる。 「何事だ!?」 立ち上がる御方の前に、怒れる夜叉の姿が見えた。 「お、おまえは鬼っ!?」 「夜叉!」 連れ去られたわたしを迎えにきてくれたの? 夜叉に会いたかった。 あの離れに帰りたかった。 御方の腕をすり抜けて、庭へ出て夜叉へと手を伸ばした。 「鬼を討て!花嫁を鬼に連れ去られるな!討った者には褒美は何でもくれてやる!!」 やんごとなき御方が声を張り上げると、あちこちから武器を手にした者が現れた。 「ふっ、ばかな人間共だ。そんなものでこの俺が倒せるとでも?」 夜叉は口元を歪め笑った。 でも、もし心臓を貫かれたら。いくら夜叉でも無事ではすまないはず。 「討て!!」 「いやっ、やめて!」 夜叉を狙い放たれた矢の前に飛び出した。 ドッ 背中に衝撃が走り、目の前の夜叉が目を見開いた。
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