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都内でのとあるワンルームマンション。そこで待つのは、そう、私だ。
誰を待っているかって?そんな野暮な質問はしないでくれ。隼人だ。ボーイフレンドというやつだ。
今日も帰りが遅いみたいだ。なにかパソコンをカタカタすればお金が湧いてくる仕事みたい。
平日は仕事だからということで仕方無いかもしれないけど、最近は土日も帰りが遅かったりする。
他に女ができたのか、と疑うこともあった。でも、朝帰りをすることは未だかつてない。だから大目に見てあげている。もしするようなことがあったら・・・血の海が広がるだろう。
夕方を告げるメロディーが外から聴こえた。隼人はだいたいこれが流れてから長い針が3周する辺りに帰ってくる。
これを聴くと、隼人と初めて会ったときを今でも思い出す。
あの時は、沢山「かわいい。かわいいいいよおおお!!」ってずっと言ってくれてたのに。
最近は頻度が減った気がする。いや、確実に減ったぞ!まったく!
なんてことを頭でモヤモヤしていると、玄関に近づく足音が聴こえてきた。
おや?今日は隼人早上がりなのかな?とウキウキして耳を澄ましてみると隼人のより重みのある足音、そして、2つ続いている。
ガチャガチャ、ドスン。乱暴に開けられたドアの音がした後に、黒い影が2つ、のっそりと入ってきた。
誰だこの顔は、隼人が帰ってくる前にお客さんが来ちゃったじゃない!あっ!?これが巷でいうサプライズってやつ?
全く隼人!私が暇していると思って友達を寄こしてくれたんだ。
ファーストインプレッションが大切なんだ、と隼人がブツブツ言っていたのを思い出して、暗い影に向けて大声でしゃべりながら笑顔で駆け寄った。
「いらっしゃい!何して遊ぶ?ボールにする?追いかけっこ?」
するとしわがれた甲高い声で
「うおおおお!でかっ。犬がいるなんて聞いてねえよ!!こんなに吠えられたら、ばれちまうだろうがよ。おい、すげえスピードで金庫探せ。」
ともう一人に指示を出した。しかし、その1人は青白い顔をし、放心した状態で、
「え、いま声が聴こえませんでした?なんかボールとか言ってませんでした??」と言った。
「何言ってんだよ!犬が吠えてるだけだろ!このまんまだと手柄なく撤退になっちまうぞ。早く草間さんの金庫探せよ!」としわがれた声。
「え?追いかけっこの方にする?」と私が言うと、
「ひいいいい!やっぱり、声が聴こえます。追いかけっことか言ってますうう!!」
どうやらこの人間、珍しく私の声が聴こえるようだ。
「やっぱり、強盗のせいで神経がおかしくなってしまっているんだ。早く草間さんの金庫探して寝よう。」と青白い顔は私の声を聴こえないふりをしだした。
「ねえねえ遊ぼうよー!何してるのー?探し物ゲーム?それならすごい得意だから手伝わせてよーねえねえ!」
青白い顔はこちらを必死に見ないようにしながら、ぼそりと、
「草間さんの金庫、草間さんの金庫、」といいながら、部屋を詮索している。
「草間さんはこのマンションの最上階だよ?ここは隼人の家。え、もしかして、あなたたち、強盗!??」
と賢いがウリの私は気づいてしまった。私の発言ではっとした青白い顔は、
「あの、草間さんの部屋番号ってなんでしたっけ?」
「1506号室だろうがよ!だからこの部屋来たんだろうが」としわがれた声。
「ここ、間違えちゃいました。506号室です・・・」
「馬鹿野郎!じゃあとっととずらかるぞ!!出直そう!!」としわがれた声がしゃべりながら、急いで玄関に向かっていった。
青白い顔も続いてそそくさと退散しようとしていたから、
「そこの青白い男、止まりなさい!止まらないと隼人にあんたたちの情報伝えちゃうわよ!!」
びくっとして立ち止まった青白い男
「一つお手伝いしてくれるだけでいいの。あんただけでも家にちょっと残りなさい。」
やっと仕事が終わった。こんな何を考えてんのか良くわかんない上司との仕事を続けられるのも、若菜が家で待っているからだ。
506号室のドアを開けようとすると、鍵が開いてしまっている。あれ?今朝鍵締め忘れたかな、と思ってドアを開けると、いつも通り若菜がしっぽを振ってお出迎えしてくれている。この顔が見れるから仕事を頑張れる。生きていけるんだ。
抱っこをして、撫でまわしていると、異変に気付いた。なにか紙が首に巻き付けられている。そして、なぜかわからないが、若菜がすごい得意げな顔に見えた。
その紙を恐る恐る開いてみると、
「かわいいってもっと言って。」
と書かれていた。背筋がぞくっとし、すぐにドアの鍵をかけた。しかもなんか男の字じゃないかこれ。どういうことなんだ。なんか事件の匂いがする。それか前の彼女かの当てつけだ。困惑に困惑を重ねていると、若菜がぺろぺろと顔をなめまわしてきた。
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