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「どうも」
若者は会釈して、彼の隣に座った。
その若者もまた、彼に対抗し得るぐらいの見目麗しい容姿をしていた。
もちろん若者は、多少は魔法の匂いが感じられるとはいえ確実に人間であったし、彼のような禍々しいくらいに妖しい美しさは持ち合わせてはいなかったが。
「お会いできて光栄ですね、魔神狩人化け猫カーラジルトどの。いや、カーラジルト・アールズロア伯爵さまとお呼びしたほうがよろしいですか?」
彼は、じろりとその若者を見た。
若者は怖れた様子もなく、彼の視線を受け止める。その明るい薔薇のような赤い目で。
「ただのカーラジルトで結構、シャルディン」
若者は、思いもかけず突然名前を呼ばれ、初めて顔をこわばらせた。
「私のことをご存知なのですか? 初対面のはずですが」
「シャルディン。アヌヴィムの魔法使い。風の王族の姫君ナナトさまの最初のアヌヴィム」
彼――カーラジルトは、淡い銀の髪と赤い目をし、額にアヌヴィムの印であるV字形の輪をはめたその若者を、視線をはずさぬまま、じっと眺めた。
「まあ、とにかく、説明する手間は省けたわけですね」
シャルディンは再び彼に微笑みかけ、少し体を楽にして、ゆったりと椅子に座り直した。
それから改めて、カーラジルトを観察するように見つめ返す。
「何だ?」
にやにやしているシャルディンに、カーラジルトが訊ねた。
「いえ。やはり口が裂けているわけではないのですね。そんな気配さえもない。実に美しい唇をされている」
「君だな。ナナトさまに妙なことを吹き込んだのは」
カーラジルトは、唐突に彼の口の両端をつまんで『裂けてない……』と呟いた七都を思い出した。
「そういう噂が飛び交っていたから、素直にお伝えしたまでですよ」
シャルディンは悪びれる様子もなく、言い訳をする。
「ある意味、的を射た噂だがな……」
カーラジルトは、ひとりごとを言うようにぼそりと呟いた。
「カーラジルトさま。あなたとはこの先、おそらく四六時中顔を合わさせていただくことになる。もしあなたがナナトさまの側近になられるのであれば」
シャルディンが言った。
「そうだな。そして、君がナナトさまのアヌヴィムであり続けるのならば、そういうことになるかもしれぬな」
「私は、そのつもりですよ」
シャルディンが、にっこりと笑う。
「あの方が好きですから、ずっとおそばにいますとも。あなたもそうされるおつもりでしょう?」
「あの方がそう望まれるのであれば、そうするだろう」
カーラジルトは答えた。
「では、ぜひ仲良くしていただきたいですね。ところで私のことをご存知だということは、やはりナナトさまから私のことを?」
シャルディンが訊ねた。
「説明を受けたわけではない。ナナトさまの中に入ったとき、君のことが見えた。記憶として」
そしてカーラジルトは、たちまち微笑みが吹っ飛んで物凄い形相になったシャルディンに眉を寄せる。
「近いぞ、シャルディン」
彼は、視点が合わぬくらいの至近距離に詰め寄ったシャルディンに注意した。
「ナナトさまの中に入ったとは? どういうことですか?」
カーラジルトは、うんざりしたように溜め息をついた。
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