生理痛とチューインガム

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 気付かないうちに辺りは夕暮れだった。山に飲み込まれていく夕日もまたオツなものである。 「ついたで」  せっかくの景色を不躾な声で邪魔された俺は、こいつの部屋へ通された。 「えらい待たせたな、美咲」 「気にせんでええで〜」 「あのなぁ、いつも言うてるやろ。変な関西弁使うなよ」 「和也のがうつったんだからしょうがないでしょ?」  和也のベットの上に寝転んでスマホをいじっている女は隣のクラスの霧島美咲。男子の人気的には上位よりの中間層。たしかバレー部。成績は中の下。小柄な体型に似合わず、胸が大きい。 「そいつが私の相手?」  霧島が俺をジロジロと睨み付ける。 「せや。不満か?」 「まぁ、及第点じゃない?ちょっと冴えないけど」 「厳しいのぅ…。これでも必死に探したんやで」 「おいおい待てよ。勝手に話が進んでるが、どういうことだよ?説明しろよ!」 「おぉ!悪い悪い。そうやったな。どこから説明しよか…そしたらまずは美咲が俺っちの妹やってとこから話すか」 「え、マジ?霧島がお前の妹?!でも苗字が…」 「あぁ!それな!昔両親が離婚した後、美咲は母親に、俺っちは父親に引き取られたもんで」 「そ、けど私達が付き合い始めてお互いの親と会ってみてびっくりよ。まぁ私達がまだ物心つく前のことらしいし、面倒事になるよりは隠しておいた方がいいと思ったんでしょうけど」 「せやなぁ…親の気持ちもわからんことないけど、もう付き合ってしもうたしなぁ。そこでや!お前に美咲とSEXしてもらおう思てな」 「……は?」 「いやいや分かってくれや、そこは。俺らは血ぃ繋がった兄妹や。心は一つになれても体はそういうわけにはいかん。せやからそこでお前の出番や。俺っちの代わりに美咲の体を愛してやってくれんか?」  俺はこの話をどんな顔で聴いていたのだろう。青ざめていたか、無表情だったかもしれない。やはり肉体と精神は別物だ。精神は肉体に勝る。この兄妹はそれを理解している。精神が一つならば肉体が別の人間だろうと関係ないと。  恐怖、不安、あらゆる感情が俺を取り囲み、日常を飲み込んでいった。そのなかで俺は不覚にも兄妹の尊大な愛に感動していた。  だが、一つ疑問がある。 「なんで…俺なんだ?」 「ガムを……踏んだからや」 神出鬼没、予測不可。  俺は今日、人生最大のガムを踏んでしまった。
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