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「あんた下手すぎ…もっと優しくしても良くなかった?」
「そう言ったるなよ、美咲。こいつだって初めてやったんや。回数重ねればうまなるわ」
俺は無言だった。この兄弟の会話も、薄っすらと残る美咲の肌の感触も、祭囃子のような興奮も、今は空気より軽く掴み所がなかった。
俺はそれから1年間、ことあるごとに美咲と肉体を重ねた。少しずつ馴染み、互いに具合も良くなってきた。ただそれでも決して俺達は一つになれないのだ。美咲の目は俺を見ていない。運命に連れ去られた恋人を見ている。俺という存在をフィルターにして、手に入ることのない完璧な愛を感じている。
ー1年後ー
しかしそれも今日終わった。美咲の方から切り出してくれてホッとした。俺から切り出せない。俺から切り出すということは彼ら兄妹の愛を、俺が恐怖や不安さえ押し殺して感じた感動の愛を、見捨てるという事になるからだ。
翌日、彼らは揃って学校を休んだ。その翌日も、その翌日も。行方不明になっているらしい。家で親が噂していた。周りでは様々な憶測があったと思う。でも俺は確信している。彼ら兄妹がどうなったのか。
彼らは肉体を捨てたのだ。
考えてみれば簡単だった!彼ら兄妹の尊大な愛を邪魔していたのは何を隠そう血!肉体そのものなんだ!どおりで!そんなおぞましい存在、俺によって汚されようがなんとも思わないはずだ。やはり彼らにとって最も重要なものは精神なんだ!
和也の不躾な声、美咲の柔らかな肌。間接的にも感じる2人の愛。あぁ!頭の中に映写機があるかのようだ!鮮明、今もそこにあるかのように鮮明だ!
「私達、案外悪くなかったんじゃない?」
彼女の目は最後の瞬間まで俺に微笑まなかった。"案外悪くなかった"か。そうだな。その通りだ!和也が目の前で好きな女を会ったばかりの奴に犯されたのも、美咲が好きでもない男に好きな男の目の前で犯されたのも、真実の愛だ。
俺はこのガムこそ真実の愛だと知った。つまりは真実の愛とは人生の魔物なのだ。
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