生理痛とチューインガム

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生理痛とチューインガム

 俺が席を立ったと同時に美咲も席を立った。周囲の好奇の目をひしひしと感じつつも俺たちは教室を出た。  俺が通う高校は周囲を山に囲まれ、通学路には田んぼか畑ばかり。典型的な田舎の高校だ。だがそんななか、典型的でないことが一つ。この高校には存在する。 「もう終わりでいい?」 「お前がそれでいいならいいけど、和也はそれで納得すんのか?」 「和也は…私から話す。分かってもらえるように言葉を尽くすわ」 「ならもうこんなのはやめにしよう。俺はもともと、乗り気じゃなかったしな」 「分かってるわよ。無理矢理付き合わせて悪かったわね」  美咲はそう言いながら制服に付いた俺の液体を拭い、髪をセットし直してトイレから出て行った。 「私達、案外悪くなかったんじゃない?」 「アホか」  美咲の目は笑ってなかった。そりゃそうさ。好きでもない男と何度目のSEXなのか。最初こそ興奮しなかったと言えば嘘になるが、もう今となっては回数すら忘れてしまった。好きでもない相手との行為の興奮は思ったより早く冷めてしまう。人間とは確固たる肉体の欲望より、もっと曖昧で自分でも理解しきれない精神的な力の方が優先されると見た。 ー1年前ー  高校生になっても俺は友達を作らず、部活にも入らず、かといって勉強熱心でもない。青春という風に乗れなかったたんぽぽの綿毛のように、ただふわりふわりと生きていた。 「こんなところで人生の魔物に出会すとは…」  校内の自販機前でガムを踏んでしまった!人生の魔物だ!神出鬼没!予測不可!人は一生の内にどれだけたくさんのガムを踏むのか、考えるのも億劫だ。 「おぉ、悪いな。それ俺っちの」 「げっ、北村和也…」 「失礼なやっちゃなぁ。なんや、げって!食い過ぎたんか?」 「ゲップじゃねーよ」  今俺の背後からいきなり声をかけたのが、北村和也。同じクラス。男子。そこそこ整った顔を台無しにするほど緩み切った表情。学校に来ているのも珍しい。不良でモテ男。ぶっ飛ばしたい。 「そういやそのガム、もう必要ないから貰ったってや」 「いらねーよ!っていうか落ちたガムに必要があるときってなんだよ」 「何いうてん。落ちたガムでも俺っちにとっては随分役に立ったで」 「は?今のところ俺に迷惑かけただけのようにお見受けするんですけどねぇ」 「そう!それで充分やねん!」 「充分って…おちょくってんなら帰るぞ。じゃあな」 「ちょっ!待たんかい!迷惑かけた埋め合わせがしたいんやけどどや?!」 「はぁ…?いいよ、別に」 「そう言わんと!な!」 「…じゃあまぁ、ジュース1本でも奢ってくれたらそれでいいよ。これで満足か?」 「いいや、埋め合わせするとは言うたが、何で埋め合わせするかはこっちで決めさせてもらうで」 「随分と自分勝手な埋め合わせだな。で?何してくれんだよ?」 「…お前、童貞やろ?」 「はっ?!急に何言ってんだ?!クソ、付き合って損した!帰るぞ!」 「おぉ!おぉ!待たんかいな!別に馬鹿にしたわけやあらへん。俺っちもそうやから安心せぇ!」 「安心って…」 「とりあえず付いてき!俺っちの家すぐ近くやから!」 「おい!待てって。せめて何するかだけでも教えてくれよ!」 「…そうやなぁ。女やな」 「おんな?」 「まぁ細かいことは付いてからや!行くで!」  俺はこの不躾な男に渋々ついて行った。この時点で俺は何か期待していたわけでもなんでもない。たださっさとこいつに満足してもらって解放されたかった。ただそれだけだった…。
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