20人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ 契約の始まり
「貴女と私が良きペアになるのには、この行為は必要なことでしょう?契約に反しているかしら?」
しなやかな指先が切りすぎた前髪に触れる。入学前に張り切って自分で挑戦したのが悪かった。
花の甘い匂い、艶やかで透明な声。水瀬カリンは直接肌に触れてもいないのに、うちは顔の中心に熱が集まったのが分かった。
「キスなんてほんの一瞬のことよ。貴女は目を閉じて身を委ねていればいいわ」
これは気遣いなん?それとも、からかってんの?
彼女の真意は分からない。海の瞳からは光が感じられないから。声から感情は理解出来ないから。
怖い、という底知れない恐怖心が襲ってくる。
「大丈夫、これは契約に過ぎないわ。そこに感情なんて生々しいものはいらない。だから安心なさい」
彼女の胸元に引き寄せられ、香りが濃くなってクラクラしてしまう。不快感はないのならこれは気持ち良いに入るのだろうか?
「初心ね」
あ、笑った……。
頑なに表情を崩さない彼女が柔和に笑んだ。ほんの一瞬の出来事で、次には唇を横に結んでいる。
うちは言われるがまま瞼を閉じ、暗くなった世界でなんで自分なんかを選んだのかさえ分からず、海に飲み込まれてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!