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第2章 彼女の気遣い
「あいうえおあい、いうえおあいう、うえおあいうえ、えおあいうえお、おあいうえおあ」
「ささげにすをかけさしすせそ!」
ピカピカの床には逆さまの世界が反射する。体育館に赤ジャージが六人が一列に整列し、彼女達は壁際からもう一方の壁へ声出し練習をしていた。
「東京特許許可局!東京特許許可局、特許許可局……あ、間違えました、すみませんっす!!」
忍先輩、まだ二回しか噛んでいない……。
部長達に頭を下げる彼女の表情は明るい。経験があるにせよ、うちが噛んだり声を震わせた回数は四回と頭一個超えた。
「次、如月ちゃん」
「はひ!魔術ち手術にゅう。まじちゅつしにゅつにゅう、魔術師にゅじゅつ中!!……す、みませ……ん」
現在進行形で記録更新中である。
「いいよいいよ、最後まで言うことが大事。次は麗ちゃん!」
「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけた」
一言一句正確に言い終える鬼灯先輩。部長のピースサインに会釈で返した。飴と鞭を使い分け、ペアとして成立している。凄い。
「最後は水瀬ちゃん。難しいやつだけどやってみようか」
「はい」
わざと鬼灯先輩、忍先輩を挟んで練習に臨んだのに、覇気のない声でさえ真隣に感じてしまう。
手元にあるプリントに載る早口言葉の一番下。唯一、平仮名で印刷されている。珍しく外も穏やかな体育館に息を吸い込むのが聞こえた。
「うたうたいがきてうたうたえというが、うたうたいくらいうたうまければうたうたうが、うたうたいくらいうたうまくないのでうたうたわぬ」
落ち着きのある涼やかな声、ゆったりと聞き心地が良いのに最後の一文字を目で追うのよりも水瀬さんの方が終わった。
「……すっごいっす!」
「やったね、水瀬ちゃん!」
二人の拍手に後の部員も拍手も加わる。肝心な本人の反応は頭が被って見えない。当然ちゃ当然なんだけど。
プリントの端に皺が広がり、鉄の味が口の中に広がる。尊敬と焦燥が混ざり合った感情の渦に巻き込まれてしまう。
はじめてのことで頭が一杯なだけ、少しずつ頑張ったらいい。
早口言葉もあいうえおあい練習もほんの数分前まで知らない練習だからと何度も心の中で唱える。よし、モヤモヤが晴れてきた。負の感情が邪魔をしてるわけではない、と遅れて拍手の波に乗った。
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