侵入姫とお湯の国の王子

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侵入姫とお湯の国の王子

「あの、あなたは……」  わたしは謎の外国人男性を前に、ここがお湯の中であることも、なぜか男性が日本語をしゃべっていることも忘れて、問いを口にしていた。 「我が名は『温棲帝国』の王、オンセイドン八十四世だ。侵入者よ、どこの異邦からこの『温棲帝国』へとやってきた?」  王と名乗る男性は、威厳に満ちた口調で言った。ウエーブのかかった金髪、彫刻のような顔立ちは、まさにおとぎ話の王様そのものだ。 「ええと……うちのお風呂からです」 「本当だな?この国では嘘は極刑に値する罪なのだぞ」 「本当です。嘘つき呼ばわりされるくらいなら、すぐ出て行きます」  わたしがそう言って王に背を向けかけた、その時だった。四方の扉が開き、鱗のような鎧を身に纏った男たちが現れると、あっという間にわたしの周りを取り囲んだ。 「いったん侵入した以上、勝手に出てゆくことは許されない」  わたしにそう言ったのは、エメラルド色の鎧をまとった若い男性だった。 「そんな……じゃあどうすればいいんですか」 「そうだな。……敵でない事を証明するには、我々と一緒に戦うのが手っ取り早いだろう」 「戦う、ですって?いったい誰と?」 「外の世界からやって来る『冷棲人』たちとだよ。彼らは異世界から冷たい水を纏って現れ、この『温棲界』の温度を下げようとしている侵略者なのだ」  男性が目に怒りをたぎらせて言い放ったその直後だった。周囲の兵士たちがにわかに緊張し始めたかと思うとわたしの前にもう一人、髭を蓄えたいかつい男性が姿を現した。 「侵入者が現れたそうだな。わしが直接、真意を質してやろう。……ん?まさかこいつか?」  髭の男性はわたしを見るなり眉をひそめ、それからしらけたような表情になった。 「侵入者というからどんな兵かと思いきや、子どもではないか。おおかたその辺の民が迷いこんだのだろう。早々に追い出してしまえ」 「いいのですか、ビバノン将軍。たしかに見た目は子供のようですが、我々を油断させる作戦かもしれません」  兵士の一人が言った、その時だった。 「その者の処遇、私に任せてはもらえませんか」  いきなり声がして、また新たな人物がわたしの前に姿を現した。 「兄上か。気まぐれで捕虜の扱いを決められてはかなわないな」  エメラルド色の鎧をまとった男性が言うと、新たに現れたもう一人の若者は「兵たちに任せておくと手荒い扱いをしそうだからね」と言った。 「たとえ捕囚と言えど不要な辱めを与えてはならぬというのが、わが王国の掟だ」と言った。  金色のマントを羽織った輝くような美貌の青年は強い口調で言うと、わたしの方を見た。 「あなたは……」  わたしが問うと、青年は「なんだ、まだ誰も自己紹介をしていないのかい」と笑った。 「私の名はプルオム。この国の第一王子だ。こっちは私の弟で親衛隊の隊長、カポーンだ」  プルオムと名乗る青年は自己紹介を終えると「よろしく、可愛い侵入者さん」と言った。
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