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その間に
うすぼんやりと浮かんだ月が、主役になる準備を粛々とすすめている。
わたしは空を見上げてその舞台裏を覗けやしないかと首をひねった。
もう少し近づけば、手が届くかもしれない。
錆びた鉄柵がわたしの体を押し返す。
少しくらい、良いじゃない。
誰の目にも見えやしない深紅の緞帳に指先を伸ばす。
散乱した光をきれいに集めて、第一声を発しましょう。
聞こえない、ちいさなこえ。
目を瞑り、耳を澄まし、呼吸を透明にする。
さ よ な ら
さよなら?
輪郭のぼやけた月がその一瞬、わらった気がした。
わたしのてのひらには赤茶色の錆がこびりつき。
昼と夜の間に、四肢を広げたいきものが音もなく落ちていく。
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