27人が本棚に入れています
本棚に追加
「サクラちゃん……乳首に氷つけてみて……」
朔也は言われた通りに氷をつけてみせた。皮膚を貫く冷たさで心が折れそうになる。
「ほら……尖ってきた……気持ちいいでしょ?」
「……気持ちいいです」
体温で温められた氷から滲んだ水滴が胸から腹までつたって落ちていく。冷たくてたまらない。氷をつけている所が赤くなっている。視覚的には凄くいやらしく見えるのかもしれない。だけどそこは感覚が麻痺していて何も感じない。暖房をつけておけば良かった。室内は冷えきっていて息は僅かに白い。
「反対側もしてみて」
ミノルさんが食い入るように見ている。
「んっっ……」
言われた通りに反対側にも氷を這わせる。
冷たすぎて辛い。全然、集中できない。心が不安定で入り込めない。何もかも全部あいつのせいだ。思考はいつもそこに行き着く。
れいじが自分に向けていた愛情を今は他の誰かに向けているのだと思うと無性に腹が立った。
「サクラちゃん、体調悪いの?」
突然、ミノルさんが言った。
画面越しのミノルさんは自分のものをしまってこちらを見ていた。
「あっ、ごめんなさい」
慌てて氷を乳首に押し付ける。ゾクッとして背中が震えた。
「いや……いいんだよ……ごめんね、冷たかっただろ?」
ミノルさんの鼻を伸ばした、いやらしい顔つきは影を潜めて、心配そうに朔也をのぞきこんでいる。
「大丈夫?」
「何でもないんです……ミノルさん本当にごめんなさい……僕まだできますから」
この失態をどう挽回できるか考えているとミノルさんは笑った。
「気にしないで、今日はお話しよっか…服を着ておいで」
朔也は暖房をつけて服を着た。クマのぬいぐるみに抱かれると少し暖かくなった。
「サクラちゃん……まじめだから寒いのに頑張ってくれてたんだよね……君にはいつも元気をもらっているんだ………少し僕の話をしてもいいかな」
朔也は頷いた。
「僕はね、35歳で独身なんだ。ゲイだし当たり前なんだけどね。会社では女子社員に気持ち悪いって陰口言われてるんだよね。仕事は真面目にやってるし、そこそこ結果も残してきたんだよ。でも太ってて顔も不細工ってだけで生理的に嫌われるんだ。あんまり露骨に嫌がられたから1度頭にきて言ったんだ。お前らみたいなブス見てねーんだよ!!って。だってそうだろ?ゲイなんだから女の子なんか見てないのにさ。そしたらセクハラだって言われて訴訟沙汰になったんだ。上司と一緒に女子社員に謝って告訴はされなかったんだけど会社に居場所がなくてね。死にたかった。そんな時、サクラちゃんに出会ったんだ。こんなに可愛い子が僕の言う通りにエッチな事してくれてさぁ………一生懸命で、優しくて嬉しかった………」
それは仕事だからに他ならない。
そんな朔也の心中を察したようにミノルさんは言った。
「仕事だとしても分かるんだよ。僕を見た目だけで判断する人の事は……君はとても人の気持ちの分かる優しい人だ……」
だけどそうじゃないって言われた。
「いつもありがとう……君に何か変化があった事は分かるんだ……君を悲しませる人がいるの?」
突然、胸に何かが込み上げてきた。目の裏がジンとする。
答えられない朔也を見てミノルさんは優しく言った。
「そろそろ寝ようかな。今日はありがとう」
ミノルが手を振る。
画面が途切れた。
れいじはこう言った。
僕に小さな女の子みたいだと思っていたのに会ってみるとちゃんと男で幻滅したと。
引きこもりだから、人間のクズだから人の気持ちが分からないと。
馬鹿にしやがって。
「くそぉっっ!」
僕があいつに言われた言葉でどんなに苦しんだか、傷ついたか分からせたい。れいじを傷つけたい。泣かせたい。後悔させたい。
最初のコメントを投稿しよう!