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「つかれた…」
思わず、口をついてでた。誰にも会ってないから売春をしている程の背徳感はないが、してもらった方が体力的に楽なんじゃないだろうかと思ったりもする。
1人で始末をする虚しい賢者タイム。
また、申請だ。
幸い前では2回イッてない。
もう夜中の1時を過ぎている。平日のこの時間はほとんど暇な事が多い。さすがにきついなと思いながらも、申請がない日もあるので仕事は断らない。
素早くウェットシートで体を拭ってマシンバイブを部屋の隅によせる。カメラの位置を確認し、ぬいぐるみの前に座る。
「こんばんわ…サクラです」
「……」
画面の中の男と目が合う。
若い男だ。特徴のない平均的な顔立ち。
カッターシャツを着ているからサラリーマンだろうか。背景は男の部屋だろう。黒いソファに座っている。ごく普通のワンルームといった雰囲気だ。
「かっかわいいですね」
「ありがとうございます」
「君、幾つですか?」
「はたちです」
「へぇ?もっと若く見える…」
朔也のお客さんはショタコンばかりだ。この男もそういう性嗜好なのだろう。
「よく言われます」
「あっ俺は今日仕事が終わって……家でお酒飲んでたんだけど寂しくなって……誰かとしゃべりたくて………このサイトで君の写真を見つけて」
しゃべりたいと言うのは男の建て前であって目的はひとつだ。
「お名前教えてもらえますか?」
「かやしまです……かやしま…れいじです」
チャットルームで律儀に氏名を名乗る人を初めて見た。話し方も緩慢だし大分、酔っているのかもしれない。
「れいじさんって呼んでもいいですか?」
「あっはい!」
嬉しそうに笑う。
「れいじさん、ぼくの事サクラって呼んでください」
もっと会話をリードしてもらえるといんだけどなと朔也は少し苛立った。
「れいじさん」
「サクラさん」
話し出すタイミングが一緒だった。
「どうぞ」
「どうぞ」
また言葉が重なった。
間が悪い。話が下手な男は苦手だ。
「あっじゃああのサクラさんのご趣味は…」
は?
婚活パーティーじゃねーぞと朔也は思った。
「特にはないですけど……音楽聞いたりとかですかね」
そんなのでまかせだ。音楽なんて全然聞かない。
「僕も音楽聞くの好きですよ…」
「………」
この人、話が広がらない。朔也は話すのがだんだん苦痛になってきた。
「一緒にお酒のんでるみたいでうれしいなぁ」
「そうですね………」
「あっそうだ!乾杯しませんか?」
「えっ?でも僕、お酒ないです」
「水でもいいので」
朔也は冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきてグラスに注いだ。
「乾杯」
「……かんぱい」
画面越しの男はトロンとした目で朔也をみている。美味しそうにグラスの酒をチビチビ飲む。
「君みたいな素敵な子と飲めて嬉しいです」
話ばかりで時間が過ぎていく。
朔也は 画面越しだとしても会話は苦手で無言の時間は居心地が悪い。
「今からしましょうか?」
「え?何を?」
何をって……
男はキョトンとしている。
「れいじさんがして欲しい事です………エッチな事」
「いやっ…!いいよっ」
男の顔が途端に真っ赤になる。
「でもっ」
「あっごめん!あっありがとう…じゃあまた!」
突然画面が一方的に切れた───
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