チャットボーイ☆ミーツボーイ

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母親から電話があった。父親が病気で入院しているから見舞いに行けと言われた。胃にポリープができているそうだ。明日手術がある。朔也は自分にポリープができたなら死ぬまでほっとくけどなと思った。手術してまで生きていたい意味が分からない。 部屋から出られないから病院に行けない。そう言ったら薄情だと言われた。朔也からしたら分かっていて行けという母親の言い分の方が薄情だった。 剣道をしていた父親は質実剛健で正義感が強い。母親はソーシャルワーカーで最近、退職し民生委員をしている。 顔を見たのはいつが最後だろう。思い出せない。 結局、朔也は病院には行かなかった。 申請がきた。 今日は新規のお客さんが午前中に1人だけだ。まだ体力に余裕はある。 画面に映し出されたのは、かやしまれいじだった。 氏名で名乗られたので覚えている。 「こんばんはれいじさん」 初めのチャットから 1週間後だった。 「サクラさん……あのこの前はすみません……動揺してしまって」 れいじは開口一番に謝った。 「いえ、大丈夫ですよ……でもお話をしたいだけならそういうチャットもあるんです……ここは料金がその分高いのでああ言ったんです」 「知ってます……でも僕は君と話しがしたいんです」 「………そういうことなら構いませんが」 わざわざ高い金額を支払って話たいと言うのならこちらから言うことはない。話がつまらなくなれば申請してこなくなるだけだ。 「僕は人と話すのが苦手なんです…それでも良ければ」 朔也は予防線を張った。 「僕も話をするのは苦手なんです。だけどサクラさんと話している時は気負わなくてよくて楽しかったんです」 れいじが照れたように俯いてそう言った。 「ありがとうございます」 直接会って話すより楽なのは朔也にもよく分かる。きっと気の弱い人なんだろうと思った。 れいじからそれから1日おきに申請が入った。ほとんどが仕事帰りで遅い時間が多い。れいじは、大井製作所という会社で営業の仕事をしている。律儀に会社名まで話すあたりは変わってるなと思う。歳は26歳で朔也の6歳上だった。 仕事の事や、職場の同僚の話。実家で飼っている猫の話。 物事の考え方が捻れてなくて優しい。幸せに育って大人になった事が分かる。たわいのない会話ばかりだが朔也は、れいじが話す外の話が自分自身の体験のように身近に感じるようになった。決して話の上手な男ではないのにれいじの口から語られる言葉には機微があった。 時々、れいじから好意のようなものを感じ取る事がある。視線はいつも優しい。れいじは美味しい物を食べた日はサクラさんにも食べさせたかったと言う。面白い事があった日はサクラさんにも見せたかったと言う。けれど朔也は食べたかった、見たかったと相槌はうつが食べたい、見たいとは言わない。 この先がないからだ。踏み込んで来られないように仕草で距離をとる。気の弱い男だからそれ以上は踏み込んでこない。気の弱いれいじを傷つけたくはない。
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