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朝早くに電話があった。父親が死んだ。
手術の後の経過に問題はなかったそうだ。
だが 朝、回診にきた看護師が見た時には亡くなっていたそうだ。
母親は泣いていた。父親の亡骸にすがりついて泣いていた。朔也は4年振りに外に出た。亡骸の父は記憶の中の父より随分小さくて、老けていた。
「あんたの事許さない……手術の日どうして来なかったの!!お父さんはあんたに会いたがってた……心配ばっかりかけ続けて……あんたは何にも返してくれない!!そんな子供いらない!!」
返事が出来なかった。 手術したら治ると聞いていた。朔也が言葉がなくて黙っていると母親は呟いた。
「あんたが死ねばよかった……」
「代われるものならそうしたい……」
母親は朔也の顔を見あげた。
「うわあああ」
母親が叫んだ。
朔也は母親の背中を撫でた。優しく優しく撫で続けた。
いくらなんでも今日は休むべきだったのかもしれない。
「今日は寒かったので、鍋を作ったんです……肉と野菜を沢山入れてしめにうどんも入れて全部食べちゃいました……」
話の内容が頭に入ってこない。
母親はあの後、謝った。
『 ごめんなさい……辛くてあんたに酷い事を言ってしまった……本心じゃないの』
『気にしないで……お母さんはその事、気にしちゃダメだよ』
「ビールも飲んだから太っちゃいますね……お正月、実家に帰ったらまた太っちゃうなぁ……サクラさんはお正月はどうされるんですか?」
だけどきっとあれは母親の本音だ。夫婦はとても仲が良かった。お互いがいないと生きられない程。その間に生まれた子よりずっとずっと大切な存在だった。
「お正月とか、家族で過ごすんですか?」
曇りのない罪のない瞳。
優しくされてきた人間の顔。
「れいじさんは僕がどうしてこんな仕事しているかわかりますか?」
質問の意図が分からない男の鈍い反応。
「え?」
「僕は引きこもって家から出られないんです。だからチャットして小遣い稼ぎしているんです。お正月に実家なんて帰られるわけないでしょ?馬鹿な質問しないで下さい……」
れいじの顔が急速に曇った。
「………すみません、知らなくて……無神経でした」
「れいじさんは僕の事好きでしょ?」
途端に画面越しの顔が茹でたタコみたいに真っ赤になった。
「あっ………はっはい。僕はサクラさんが好きです」
「なのにどうして僕と話がしたいのかな?僕の事が好きなら、本当はエッチな事したいと思ってるんですよね……自分は下衆な男と違うと思われたいんですか?」
「僕はサクラさんにそんな事望んでません……優しくしたい………笑顔が見たい」
むず痒くて胸糞悪かった。
「僕と実際に会ったこともないのにどうして好きなんて言えるの?」
「会ってなくてもすごく好きです。あっ会ってみたいです……」
泣きそうな顔でれいじが言った。
朔也に凶暴な衝動が駆け抜けていく。
「お前なんかに会うわけないだろっ!……ばーかっっ!!」
チャットをオフにした。画面が切れて、目障りなれいじが消えた。
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