チャットボーイ☆ミーツボーイ

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高熱は3日くらいで下がった。 れいじが日用品や食べ物を買って持ってきたので朔也は母親に頼まずにすんだ。 代金を払おうとしてもれいじは受け取らなかった。 インフルエンザが完治してからもれいじが仕事帰りに何かを買ってきてそれを二人で食べるのが習慣になった。 朔也はそろそろ仕事を始めたかった。れいじが仕事が終わって朔也のアパートにつくのは9時を過ぎた頃だ。夜仕事から帰って一息してから申請してくるお客さんが多いのでれいじがやってくる時間と重なる。 「サクラちゃんは僕がこうやって一緒に食べないと食べないだろ?心配なんだ……」 れいじはそう言って甲斐甲斐しく世話を焼く。初めは素直に感謝していたが、毎日されると自分に会うための口実を作っているだけのような気がして姑息だと思うようになった。休みの日も実家で野菜が取れたからとか言って、何かと理由をつけて押しかけてくる。いつ来るか分からないから困ると言うと、じゃあ電話して来るから番号を教えてと言われた。断りにくくて教えてしまった。当然のようにチャットの申請もしてこなくなった。 あの一件からサクラさんからサクラちゃんと呼ぶようになった。他のお客さんには何の迷いもなく呼ばれているのに、れいじに言われると馴れ馴れしい気がしていい気がしなかった。 れいじは自分に 恋人ができるまでチャット をさせてくれと言った。あの約束はれいじの中ではすでになくなったんだろうか。 朔也は恩を押し付けられこのままなし崩し的に恋愛関係になるつもりはなかった。 それにれいじは言った。ゲイなのかと尋ねるとゲイではなく、自分はノーマルで小さくて可愛い女の子が好きだと答えた。ならば、そんな彼女を見つければいい。 朔也は自分のセクシュアリティについても認識できていない。極端にコミュニケーションをとらない青春を過ごしから、生まれてから今まで恋をしたことがない。例えこの先、誰かに恋をする事があったとしてもあのれいじである可能性はない。 れいじの外の世界の話を聞くのが好きだったが毎日聞いていると、どうでもいいつまらない話としか思えなくなってきた。飼っている猫の話。会ったこともないれいじの兄の子供の話。れいじの小さな者に対する無条件な愛情を理解できない。あの男には自分を惹きつける魅力がない。欲しくもない優しさを押し付けてきて好きになって欲しい、という下心が見え透いている。 「そろそろ夜も仕事したいから明日から弁当、買ってこなくていいよ」 朔也はそう切り出した。 「じゃあ弁当を持ってきたら帰るよ」 「いいったら……」 「持ってきたら帰るから」 以外と押しが強くて朔也は話すのが面倒になった。すぐに帰るなら問題ないかなと思っていた。
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