コーデリの歌〜リーンの角笛による雄大な独奏曲〜

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 コーデリから薬草や木の実を貰う生活が始まってから一ヶ月が経った。雨の日でも寒い日でも毎日欠かさず来てくれるのに、回復の兆しも見えない自分の体に焦りを感じていた。  外では雨が降っているようだ。屋根にあたる雨粒の音がそれを示していた。  コーデリが来るのは人に見つからない夜の時間だ。だから、ここのところ話していない。  ガリガリと引っ掻く音がする。しかし、今日はそれに応えることすらできなさそうだ。起き上がるのがこの上なく辛い。せめてありがとうだけでも言いたいが、それも言えない。 「⋯⋯もう、嫌だなぁ」  肺の苦しさと、自分のやるせなさに思わず瞳が潤む。同時に自分の弱い精神を戒めたが、それでも雨は止むことがなかった。  玄関の前に溜まってゆく薬草や木の実。それは、もう起き上がることさえ難しいことを意味しているのだろう。  最後に会話したのがずっと前のように感じる。「夕方に、会いに行ってみようか」という考えが頭の中に浮かんだが、それはすぐに記憶の海に沈んでいった。 ——あまりに危険すぎる。夜の間ならともかく、夕方は人に会う可能性が高い。  でも、少しだけなら⋯⋯?  考えることなく、勝手に足は森を駆けていた。川を飛び越え、茂みを通り、ついに家の前にたどり着く。  ドアからリーンではない人間が出てきた。心配そうな顔をしているところを見ると状況は深刻なのかもしれない。  奴が離れていったのを見計らい、前足でなんとかドアを開ける。 「⋯⋯コーデリ!? 危ないじゃないか、こんな時間に来るなんて」  今にも枯れてしまいそうな枝のように細くなった腕に驚く。変貌ぶりが尋常ではなかった。 「それより、いつもありがとう。⋯⋯見ての通り立ち上がることすらままならないけど、『コーデリの歌』は絶対に完成させるから」 「それは楽しみだが、本当に大丈夫か?」 「大丈夫、少し風邪が長引いてるだけだから。ほら、村の人に見つかったら大変だよ」 「⋯⋯これからは家に来てもいいか?」 「だめ。見つかったら命が狙われるから」 「せめて日曜日! それだけならいいだろう?」 「⋯⋯そんなにいうなら。でも、今日は早くお帰り」  空には黒い絵具を水に混ぜたような色が広がっている。夜が来たようで、言葉が話せない。  少し焦ったようにリーンは家から追い出した。 「⋯⋯日曜日、大丈夫かな」  はぁ、と一つため息をつく。 ——狼は家畜を襲い、狩りの邪魔をする動物として嫌われている。それに、病気を媒介するとして見つかったら殺されてしまうのは目に見えている。  一抹の不安を覚えつつ、布団を頭にかぶった。
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