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『ところで、今日はどうするんだ? 坊主』
部屋に戻ると、脳裏にいつもの喉太い声が響いてきた。このやりとりが日常になったのも、いつ頃だっただろう。
「今日は、道具の手入れかな。今週はずっと快晴が続くみたいだし、晴れの日が続くと、陽の力も満ちやすいからね」
『そうか!ならせっかくだ、アレも作ってくれんか、坊主』
「アレって、月明酒のこと?」
『おうよ』
上機嫌に返す低い声に、僕は呆れ混じりの笑みを向ける。
月明酒とは、陽の力が満ちた月夜に、月光を三日当て続けることで作られるお酒だ。本来は、お供えやお清めに使ったりする。しかし、彼の場合は目的が違う。
『あの陽の力特有の癖になる味。何度飲んでも、飽きる気がせん』
「御神酒を好んで飲もうとする鬼なんて、剛濫くらいだよ」
『何をいうか坊主。この世はな、酒を飲みながら楽しく生きてなんぼなんだぞ!』
「変わらないね、そういうところ」
『おうよ!なんたって、俺の信条だからな!』
「ガッハッハ!」と脳裏で豪快に笑う声の主ーー内に宿る鬼の剛濫に、僕も思わず笑みが溢れる。
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