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1話【振り回されるのは、いつものこと】
****♡Side・電車
「なー、塩田」
「なんだ、ダーリン」
めちゃくちゃ棒読みで、返事をする塩田。電車はホームセンターの前で足を止めた。
「ヘルメットとか盾とか、買った方が良いと思うんだが」
「何故」
「いや、何故って、ほら防御力上げとかないと」
──いや、むしろ保険に入るべきか?
「は? 何処に行く気なんだ?」
「何処って、気分はラスボス戦だけど」
電車は、
「鍬の方がいいかなー?」
と農作業用具の前へ。
塩田が怪訝な顔をする。
「俺の両親を殺す気なのか?」
「え?」
塩田の言葉に、”潜在意識にそういうものがあるのかも知れない”と電車は思った。そう、殺られる前にヤれ。後ろの意味は若干違う気がするが。
「戦って勝ったら、そうなることもあるかもしれないね」
と、電車。
鎌を手に取る。
「なんの話をしているんだ、一体」
塩田は電車から鎌を取り上げると、棚に戻す。
「案ずるな。俺の両親は、温厚だ」
──何、笑いながら5、6発殴ってくる感じ? めっちゃ怖いんですけどー?
「そんなことより」
といって、塩田は電車の手を掴む。
「明日はデートだ。デートをするぞ。紀夫」
「生きてたらね」
電車はそれどころではない。
──ん? 電話?
電車の胸ポケットに入れている、スマホのバイブが鳴っている。
「塩田、課長から電話」
「は?」
塩田は思いっきり嫌な顔をする。課長は塩田にかけても出ないと踏んだのだろうか。いつもなら塩田にかけるはずの電話がこちらに来た。
「出るのか?」
と、塩田。
「出ないと、板井がかわいそうだろ」
今、苦情係は板井と課長の二人だけのはずだ。もしかしたら、副社長の皇が手伝っているかもしれないが。
電車はため息を一つつくと、
「はい」
といって電話に出る。
『あ、電車。何、今どこに居るんだよ』
「塩田の実家付近です」
『何してんの、そんなところで』
何って、言われてもな。
「戦いに行くところです」
『は?』
結婚はしたいが、殴られるのは嫌だ。しかも、生きていたら明日はデート。ハードスケジュールである。
「で、課長はなんですか?」
『今、戦場なんだが』
「何処の国に居るんです?」
『日本に決まってるだろ』
──日本に戦場なんて……。
戦場ヶ原? 何してんの、そんなところで。
『何でも良いから、戻って来い。塩田の機嫌とってさ、頼むよ』
珍しく課長が弱気だ。
「起源……」
──塩田の起源と言えば、両親。
起源を取る……つまり、玉とるってこと?
なんだか課長も物騒なことを言っているな、と思いながら塩田の方を見ると、腕組みをし般若のような顔をしてこちらを見ている。
「生きて帰れるか分かりません」
と、電車。
『なんなの、おまえら。樹海にでもいんの?』
「心は樹海も同然です」
なんだかいまいち、噛み合っているような、噛み合っていないようなやり取であった。
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