1話【振り回されるのは、いつものこと】

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****♡Side・電車(でんま)  正直この展開は想像していなかった。  目の前の光景を見て唖然とする電車(でんま)。 ───殴られるって、俺じゃなくて塩田が⁈  時は少し遡る。 「ここだ」 と言われて見上げた建物は、まるでアラブの宮殿だった。 「塩田の家って石油王か何か?」 と、電車が問うと、 「一般人だ」 と返ってくる。  一般人は宮殿など、そうそう建てるものじゃない。 「俺は姫路城のような日本の城に住みたかったのに、親父が間違えたんだ」  それもどうかと思う。 「ただいま、母さん」 と、会社では挨拶すらしない彼が、家に向かって声をかける。 「あら、以往ちゃんおかえり。そちらの方は、お友達?」 と、出てきた女性は塩田の母だけあって美人だ。 「いや、婚約者」  しかしそう塩田が返した途端、般若のような顔をした。思わず身構える、電車。 「お父さん! お父さん!」 「相変わらず、騒がしいな」 と塩田。 「誰のせいだと思っているの!」 と、母。  どうした、と言って父も顔を出した。かなりのイケメンである。  美男美女から産まれたから塩田は美人なのかと感心していると、 「親父、俺は紀夫と結婚する」 と告げた。 「なんだとおおおおお!」  イケメンが般若のような顔をし、サイ〇人さながらのスピードで塩田に拳を七発繰り出す。塩田はそれを全て避けた。ぎょっとする、電車。 「あ、あの。俺、電車(でんま)紀夫(のりお)と申します」 と、空気を換えようと手土産を母へ。 「あら、ありがとう。ネコの人形焼きだわ」  母はネコ好きだった為、歓迎される。中に入ると、金のダイニングテーブルに案内された。赤色のシルクの布が斜めにひいてあり、ここは何処の国ですか? と思わず言いそうになる。 「あれほど、お付き合いは止めなさいと言ったのに」 と、母。 ───え、付き合い反対されてたの? 塩田、一言もそんなこと言ってなかったのに。 「就職の時も、マンション買う時も、反対したのに」 ───ん? 就職? 「煩いな、あれは俺の意志じゃない。社長がうちで働けってシツコかったからだ」 と、塩田。 「課長さんに迷惑かけてない? お母さんは、心配で、心配で」 「会社なら、辞めた」 「はああああ?!」  その途端、ティッシュ箱が母の手から飛んでくる。塩田は避けた。 「んもう! あれほど迷惑はかけちゃダメって言ったのに。どうして以往ちゃんは、ママの言う事が聞けないの?」 「あれは課長が悪いんだ!」 と、塩田。  塩田の母はスマホを持つと立ち上がる。どうやら課長にかけるらしい。塩田はふんぞり返っていた。 「で、結婚とは本気なのか?」 と塩田の父。  電車が、 「俺は本気です!」 と告げると、 「君、正気か?」 と問われる。 「そのつもりですが……」 「こんな、何もできないバカ息子と……苦労しかしない。お奨めしないぞ」 と言われた。  どうやら塩田の人となりに問題があるため、結婚を反対されているようだ。電車は一先ず、ホッとした。そしでこの夫婦はよっぽど苦労したんだな、と察する。 「俺は、紀夫が好きだ。結婚する」 と、塩田。  何故か父が驚いた顔をした。 「お前が何かを好きになること自体、珍しいな」  塩田は無関心な男だ。何に対しても。執着することもない。そんな塩田が、電車の対しては違う、という事が父の心を動かしたのだろう。 「紀夫くんと言ったかな。このバカ息子を頼みます。嫌になったら返却して良いので」 と、父。 「返却だなんて……俺は塩田のことが大好きなので」 と電車が微笑むと、 「あなたは仏様か!」 と驚かれる。 ───いや、生きてるから!
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