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****♡Side・電車
正直この展開は想像していなかった。
目の前の光景を見て唖然とする電車。
───殴られるって、俺じゃなくて塩田が⁈
時は少し遡る。
「ここだ」
と言われて見上げた建物は、まるでアラブの宮殿だった。
「塩田の家って石油王か何か?」
と、電車が問うと、
「一般人だ」
と返ってくる。
一般人は宮殿など、そうそう建てるものじゃない。
「俺は姫路城のような日本の城に住みたかったのに、親父が間違えたんだ」
それもどうかと思う。
「ただいま、母さん」
と、会社では挨拶すらしない彼が、家に向かって声をかける。
「あら、以往ちゃんおかえり。そちらの方は、お友達?」
と、出てきた女性は塩田の母だけあって美人だ。
「いや、婚約者」
しかしそう塩田が返した途端、般若のような顔をした。思わず身構える、電車。
「お父さん! お父さん!」
「相変わらず、騒がしいな」
と塩田。
「誰のせいだと思っているの!」
と、母。
どうした、と言って父も顔を出した。かなりのイケメンである。
美男美女から産まれたから塩田は美人なのかと感心していると、
「親父、俺は紀夫と結婚する」
と告げた。
「なんだとおおおおお!」
イケメンが般若のような顔をし、サイ〇人さながらのスピードで塩田に拳を七発繰り出す。塩田はそれを全て避けた。ぎょっとする、電車。
「あ、あの。俺、電車紀夫と申します」
と、空気を換えようと手土産を母へ。
「あら、ありがとう。ネコの人形焼きだわ」
母はネコ好きだった為、歓迎される。中に入ると、金のダイニングテーブルに案内された。赤色のシルクの布が斜めにひいてあり、ここは何処の国ですか? と思わず言いそうになる。
「あれほど、お付き合いは止めなさいと言ったのに」
と、母。
───え、付き合い反対されてたの? 塩田、一言もそんなこと言ってなかったのに。
「就職の時も、マンション買う時も、反対したのに」
───ん? 就職?
「煩いな、あれは俺の意志じゃない。社長がうちで働けってシツコかったからだ」
と、塩田。
「課長さんに迷惑かけてない? お母さんは、心配で、心配で」
「会社なら、辞めた」
「はああああ?!」
その途端、ティッシュ箱が母の手から飛んでくる。塩田は避けた。
「んもう! あれほど迷惑はかけちゃダメって言ったのに。どうして以往ちゃんは、ママの言う事が聞けないの?」
「あれは課長が悪いんだ!」
と、塩田。
塩田の母はスマホを持つと立ち上がる。どうやら課長にかけるらしい。塩田はふんぞり返っていた。
「で、結婚とは本気なのか?」
と塩田の父。
電車が、
「俺は本気です!」
と告げると、
「君、正気か?」
と問われる。
「そのつもりですが……」
「こんな、何もできないバカ息子と……苦労しかしない。お奨めしないぞ」
と言われた。
どうやら塩田の人となりに問題があるため、結婚を反対されているようだ。電車は一先ず、ホッとした。そしでこの夫婦はよっぽど苦労したんだな、と察する。
「俺は、紀夫が好きだ。結婚する」
と、塩田。
何故か父が驚いた顔をした。
「お前が何かを好きになること自体、珍しいな」
塩田は無関心な男だ。何に対しても。執着することもない。そんな塩田が、電車の対しては違う、という事が父の心を動かしたのだろう。
「紀夫くんと言ったかな。このバカ息子を頼みます。嫌になったら返却して良いので」
と、父。
「返却だなんて……俺は塩田のことが大好きなので」
と電車が微笑むと、
「あなたは仏様か!」
と驚かれる。
───いや、生きてるから!
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