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じわり、と蛍の目が潤んだ。
「それは大人になるまで待つということでありんすか? わっちは早くここから出たいのに」
「ここにいる妓は皆んな同じだろうよ」
蛍は口を歪め、地面を見つめた。
男は歩くように促した。
固まる蛍にひとつため息を吐き、たもとから何かを取り出し蛍の口に放り込んだ。
「あまい……甘いでありんす」
「金平糖だ。姐さんでもあまり食べられないだろうな」
男はしゃがみ、もぐもぐと咀嚼する蛍に目を合わせた。
「さっき夜が嫌だと泣いていたな?」
ゴクン、と飲み込み蛍は口を開いた。
「あい、夜は嫌いでありんす。夜は長くて暗くて。おっ母が、姉ちゃんがいなくて。それで」
男は先ほどの包紙を破り、折り始めた。
何が出来るのかと見つめていると器用にも一枚の紙からクチバシが繋がった二羽の鶴が出来上がった。
「こっちがお前のおっ母、もう一つが姉さんだ。これを家族だと思って大事にしろ」
蛍は目を輝かせた。
「わっちにくれるんでありんすか?」
破れないようにそっと受け取り、蛍は飛び跳ねた。
「おじさん、ありがとうございんす」
左手に鶴、右手に男と手を繋ぎ、気づくと店の前まで来ていた。
そこには遣り手が仁王立ちしていた。
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