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「ふーん。『蛍ちゃん』時代の蛍火(けいか)ちゃんにはそんな思い出があるのでありんすか」  隣に眠る美鳥(みどり)は少し羨ましそうに口を尖らせた。 「でも片瀬様に会えたのはあの一度きりだけでありんした……」 「で?」  思わず美鳥は蛍火の方を向いた。 「で? とは?」 「まさかそんな飯の種にもならない話を延々ととしていたのでありんすか?」 「す、素敵な話でありんしたでしょう?」 「はいはい。もうすぐ突き出しだからそんな美しい思い出話でもしたくなったのでありんしよう」  美鳥に思い起こさせられた現実に蛍火は手を握りしめた。 「あの鶴は今も肌身離さず持っていんす」 「蛍火ちゃん!」  美鳥は小声で蛍火を怒鳴った。 「わっちらも十六。をするかはもう分かっていんしょう」 「美鳥ちゃんは──」 「わっちは売れっ妓になって身請けをされるのが目標! 蛍火ちゃんみたいに昔にかじり付きたくないでありんすなあ」 「わっちは只」 「ああ嫌だいやだ。わっちはもう寝りんす」  プイと反対方向に美鳥は向いてしまい、暫くすると寝息が聞こえた。  蛍火は枕の下に忍ばせた鶴を手に取った。  鶴はいつしかバラバラに別れ、一羽は何処かへ無くしてしまった。  蛍火はいつしかその鶴は「おっ母と姉ちゃん」ではなく「自分と片瀬様」だと思えていた。  そして今ここにある一羽は片瀬様の化身とすら思っていた。 「片瀬様」  蛍火は鶴に口づけをするとまた枕元にしまって今度こそ眠りについた。
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