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(今夜から、終わりの見えない地獄が始まりんす)  トボトボと歩きながら蛍火は思った。  寧ろ店側として見れば蛍火はこの日のために生かされていたと言ってもいい。  神社の横にあるお気に入りの石に座り、蛍火はぼんやりと辺りを見渡した。  この世がずっと昼だったらいいのに、と幼い頃から思っていた。  昼ならば客を相手にする事もない。嫌な客と会う事も姐さんからの叱責も受ける事ない。  蛍火は段々と辺りが暗くなるのを感じた。  そして、美しい夕陽を見た。  彼方に堕ちる夕陽はそれは言葉で表せないほどだ。  道ゆく遊女達や男達は誰も見向きもしない。  手をかざして、手の隙間から紅い光が漏れるのをしっかりと見届ける。  どうかこのまま。  夜なんか来ないでほしい。  きっとこれは遊女皆んなが思うことのはず。  ずっと時が止まってせめて夕暮れでいてくれたら。  そうしたら、これから始まる悪夢なんか見ずにすむのに。  そろそろ頃合いだと蛍火は思い立ち上がった。 「さよなら、『蛍』」  懐から鶴を取り出しいつもの特等席に置くと手ごろな石を上に置いた。 「初恋はここに置いて行きんす」  それから一度も振り返る事なく蛍火は棗楼へと戻って行った。
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