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一
「なにを泣いているんだ?」
男は尋ねた。
「夜が、夜が来んす」
少女はしゃくり上げた。
男は察し、手拭いを取り出すと涙を拭ってやった。
「早く店に戻ろう。ついて来てやるから、怒られはしないだろう」
男は少女の手を立たせ、手を引いた。
「どこの子だい?」
「……棗楼の蛍」
「歳は?」
「六つ」
「そうか」
目的地が近づくにつれ蛍の足取りは重くなり遂には動かなくなった。
「帰りたくない。ねぇ、わっちをここから連れ出してくんなまし」
蛍は男の膝に縋り付いた。
男はしゃがみ、肩に手を置いた。
「それは無理だ。お前さんがここ吉原を出られるのは年季が明けるか、身請けされるか、死ぬかだ」
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