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古びた一軒家だった。木の表札はすっかり風化している。人の気配はない。一見して、人が住んでいるのかを怪しんでしまうような廃れ具合だが、庭木はきちんと手入れされており、門から玄関までの短い距離は楽に歩くことが出来た。
門の傍にあるインターフォンの押しても誰も出なかったので、そのままドアに手を掛ける。施錠されていた。出掛けたところでこの鍵を落としたのだろうか。鍵を差し込むと、難なく開いた。
家の中は暗かった。やはり人がいる様子はない。彼は靴のまま上がり込んだ。まずは居間を物色する。引き出しを片っ端からあけ、現金や通帳、実印を探す。あるいはめぼしい貴金属など、だ。
けれど、よくしまわれている場所をいくら探しても、何も出なかった。ブラウン管のテレビは沈黙を守っているし、黄ばんだ透明ビニールカバーが掛かったテーブルの上は綺麗に片付けられていた。台所に入る。やはり綺麗に片付けられていて、食器カゴに洗った後の食器も入っていない。やかんも鍋もしまわれているのか、見当たらない。何より冷蔵庫がなかった。
テレビもブラウン管だし、あまり電化製品を好かないのか、あるいは金がないのか。だから鍵も旧式のままなのだろうか。鍋ややかんはきちんとコンロ下の扉の向こうにしまわれていた。使う度に戻しているのだろうか。律儀だ。
台所も収穫なし。もしかしたら、清貧を良しとする家なのかもしれない。そうすると、これ以上の物色も意味がないように思えた。一旦居間を出る。
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