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落ちてた鍵
落ちていた鍵を拾った。普通ならばそれだけの話だった。警察に届けるなり、塀の上に置くなりして持ち主の発見を願うだろう。見つけた彼も、普段ならば拾ってその家を探す、なんてことはしないはずだった。
けれど、この日は違った。さっき尋ねた家で、ちょっと箪笥の中を拝見している間に家主が帰ってきてしまった。悲鳴を上げる相手を突き飛ばして振り返りもせずにそのまま逃げた。凡そ、罪悪感と言う物とは無縁だった彼は、人を突き飛ばして怪我をさせたかもしれない、ということよりも、自分の仕事ができなかったことに腹を立てていた。
そうであるから、その明らかにレトロな鍵──昨今の防犯に配慮された鍵とは真逆の──を見て、彼は神様が自分にチャンスをくれたのだと思った。それは自分にとっては福の神で、誰かにとっては疫病神なのだ。
勿論、彼には鍵を見ただけでそれがどこの家か見破るような能力は持っていない。異世界転生をしたわけでも、雷に打たれたわけでもない。
けれど、その鍵に関しては、どこの家のものかあたりを付けることができた。今日入った家の下見をする際に通り掛かった、古ぼけた一軒家。こんな鍵を使うのはあの家しかないだろう。
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