第一詠唱 はじめましては突然に

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春。 新たな年度の始まりがまたやってきた。 街を桃色に染める桜の花びらが舞い、行き交う人々の表情も明るく、活気に満ちていた。 ただ一人の男を除いて。 「……はぁ」 朝霧蓮(あさぎりれん)は小さな公園のベンチでため息をついた。 手に持っているスマホの画面には、口座の預金残高が表示されている。 大幅に減ってしまった数字を何度見返したところで、何かが変わるわけでもない。 「しばらく節約しないとだな」 休日に制限が無くなった反動で、遊びに飲みにとにかく費やしていた。 貯蓄がやがて底を突くことなど考えもしていなかった。 「自由、最高!」 あれからすでに三ヶ月が経ち、解放感も徐々に薄れつつあった。 そんな時に、新しくオープンしたというバーへと導かれるまま入店。 目鼻立ちの整った綺麗な女性と出会い、打ち解け、飲み進めている内に寝落ち。 スタッフに揺り起こされ、気づいた時には女性の姿はなく、二人分の請求だけが残されていたのだった。
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