第一章 天気雨の心

11/27
前へ
/196ページ
次へ
 智之は、健司の言葉にホッとしている。失言と思ったようだ。  「いや、今は婚約だ。布川、働いたばかりだろ。さすがに、結婚は早いって」  婚約という言葉を聞くと、やっぱり胸が痛くなる。  冬夜(とうや)がいつ、弥生(みお)に恋愛感情を持ったのか分からないが、通常の交際ではありえない素早い行動は、彼がかなり前から想っていたのでは、という考えを(いだ)かせた。  もし、そうなら、健司の行動は、彼には絶好のチャンスだったわけだ。冬夜の感情は知らないが、結果的に恋敵に奪われる状況を自分で作った形になる。  しかも、彼は月森家の次男。すべてが健司よりも格上だ。自業自得と思うと(つら)いが、そのとおりでもある。  そして、昴流と芽生を名前で呼んでいることで、智之は、二人とかなり親しいとも分かる。つまり、ホストという前職に対する偏見はないのだとも。  健司にはできなかった。水商売をしていた奴という思いで接したから、昴流は、彼に対して打ち解けた態度を取ることはなかった。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

390人が本棚に入れています
本棚に追加