第一章 天気雨の心

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 その後は、平凡な近況報告に変わった。コーヒーを飲み終わる頃、健司は智之と別れた。  「いろいろ教えてくれて、ありがとう。もし、良かったら連絡先交換しないか」  少し考えた智之だったが、健司の申し出を受けてきた。  「うん、いいよ。  でも、隣りのビルに大学の同級生いるって珍しいよな」  「ああ。俺も思ったね」  約束して会うほど親しいわけでないが、共通の話題がある。何かあれば連絡してもいいと思った。交換したのだから、智之も同じ気持ちだろう。  今日の会話の中で問題ない部分が、行成経由で弥生(みお)へ伝わるはずだ。  安心させたい気持ちと、大変な状況なら、彼女はやり直してくれるだろうかという、不可能になった願いが両立していた。  弥生を失ったという心の痛みを抱えながら、毎日を過ごしている。時間が痛みを(やわ)らげてくれるまでは……
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