390人が本棚に入れています
本棚に追加
あの女との浮気のきっかけも、一人の部屋が寂しかったからだ。電話を掛ければ、家族や弥生の声は聞ける。でも、姿が見えない状態での会話は、想像以上に寂しさを募らせた。
電話を終わらせて感じる、言いようのない孤独感。健司はその寂しさを我慢できなかった。
会社の飲み会に参加した時、あの女も来ていた。
〝鈴木くん、会社慣れた?〟
二年先輩だったので、健司は敬語だったが、酔いが進むと普通の口調になっていった。
二次会をどうしようと迷う健司に、あの女はささやいてきた。
〝ちょっと酔っちゃった。鈴木くんの部屋で休ませて〟
今なら、それが健司を狙った、あの女の手口と分かるが、酔った彼には分からなかった。部屋に一人で帰らなくて済む。その感情だけで、そのままタクシーでアパートに向かった……
総務部だった、あの女は、健司が独り暮らしと知っていたのだろう。そして、東京出身でもないのに本社勤務。新入社員なら、あの女の悪評も知らない。すべてが好都合だった。
悔やんでも何も変わらない。遠距離恋愛を甘く見た自分が悪い程度は理解している。
最初のコメントを投稿しよう!