第一章 天気雨の心

18/27
前へ
/196ページ
次へ
 ***  「よし、完了」  なんとか土日で、家具の新しい配置が決まったので、健司はホッとした。世の中にはレイアウト変更が趣味という人間がいるが、健司にはまったく理解できない。  以前は、弥生(みお)が来ることも考えた配置だったが、今は健司だけ。彼は、自分が使いやすいレイアウトを目指した。  二度と彼女は来ないと思うと、自分が悪いと分かっていても辛くなる。  健司は、弥生のような勝気な女性が好みで、知り合って間もなく交際を申し込んだ。モデルのような弥生は、好みというだけでなく、連れて自慢できる恋人でもあった。  サッカー選手の健司とモデル体型の弥生。サッカー同好会で、健司はみんなから羨ましいと言われて気分が良かった。  自分が好きなのは一番重要だが、周りの評価も無視できない。羨望の視線を喜ぶことは悪いとは思わない。でも、こんなことになると、同好会の仲間に会いづらくなってしまう。  「とりあえず、これでいいんじゃないか」  自分を励ますように言った健司は、新しく見える部屋を見回した。そして、缶ビールのプルタブを開くと、そのまま飲みだした。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

390人が本棚に入れています
本棚に追加