第一章 天気雨の心

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 ***  週明けは月初めでもあったので健司は多忙だった。経理部は月初めが忙しい。  「あ、鈴木くん、机に領収証置いといたから」  同じ経理部だが、違う課に所属している社員から声が掛けられた。  「……分かりました。ありがとうございます」  不満があっても彼女に言うわけにはいかない。悪いのは、領収証を検認(けんにん)担当ではなく違う社員に渡す、他の部署の人間だ。  溜息を小さくつきながら机を見ると、数枚の領収証が乗っており、疲れが倍増する気分だった。  (結局、返すんだから、こんなことしても意味ないよな)  心の中で不満を言う。  領収証だけでは検認は通らない。提出者と日づけ、そして支出の内容を書いた書類を添付(てんぷ)することが必要だ。  各部署の提出用の書類を渡しているが、書いてくる社員は、きちんと締め切りを守る。  慌てて間に合わせようとする社員が、とりあえず領収証を出して検認を通そうとする。出したから、経費の支払いを認めろと……
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