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「はい……なんでしょう、佐藤主任」
健司の父親とそれほど変わらない年齢の彼は、不機嫌さを隠さずに、とげとげしい口調で言葉を向けてきた。
「なんで、この領収証が不可なんだよ。おまえ、ふざけてんのか?
客と飲みにも行くなってことか」
「……」
この会社では、接待費が認められるための条件は厳しい。事前の申請が必要なだけでなく、社員一人では、打ち合わせ後の飲食は不許可だ。監視がないので、本当に、取引先と業務に関連しての会食なのかどうかを証明できないからだ。
なので、ほとんどの社員は部署の指示がない限り接待を行わない。つまり、個人的に領収証を出す人間は極めて少ない。この主任は例外的な社員だ。
「あの……事前申請がありませんでしたので……」
それでも厳しくは言えない。相手は健司の二倍以上の年齢で主任。それに、すぐに怒鳴る性格だ。あまり刺激できない。
でも、その配慮が無意味程度も分かっている。
「あのな」
ここで、佐藤主任は、わざとらしく言葉を切った。できの悪い子供に対するような、あざける口調が健司の苛立ちを煽る。
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