第一章 天気雨の心

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 「急に打ち合わせが入って、どうやって許可を取るんだよ。  領収証にも打ち合わせって書いてるだろうが」  黙った健司に、さらに言い(つの)ってきた。  「何も知らない(ひよこ)のくせに生意気言うんだから、経理部ってのは(しつけ)がなってないよな」  反論したいが、どうやって言い返せばいいのか分からない。不運なことに、検認(けんにん)担当の先輩二人が人事部と総務部に行っている。  この場にいる検認担当者は健司だけなのだ。狙ってきたとしか思えない。  動揺で汗が(にじ)む。聞こえているはずの、他の経理部の社員は、業務で忙しいという態度で気づかないふりだ。打開策が浮かばないでうろたえる健司の耳に、凛とした女性の声が届いた。  初春の香りが流れてきた。  「佐藤主任、この程度の領収証で許可が出ると思っているんですか。  まず、宛名が手書き。そして、(ただ)し書き(支払いの内容)も飲食代。さらに、打ち合わせと言いながら、相手の会社名、担当者の氏名も書かれていない。  それに、指定書類の添付(てんぷ)もないですね。何を考えてこちらに来られてるんですか」  不在だった担当者の一人。最終決裁を行う主任の梅谷(うめたに)実花(みか)だ。彼女を見る佐藤の顔から血の気が引いた。
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