第一章 ようこそ、地獄の閻魔庁へ

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「この仕事もだいぶ慣れてきたのではないか?」 「慣れていないですよ、毎回悩みますし、一杯一杯です」 閻魔ちゃんは、宇治茶を飲みながら私に聞いてくる。 ちなみに閻魔大王といえば、赤い顔に大男というのが当然と思っていたのだが、私がこの仕事につくことで怯えないようにという配慮から少女の姿になっている。 その場合は閻魔ちゃんと呼ぶように言われ、私はそう呼んでいるのだ。 「大学はどうじゃ?」 「まだ始まって一ヶ月ちょっとですからね。 そろそろバイト先を決めないと」 私の出身は東京。今通っている大学は何故か京都。 一人暮らしをしているので親の仕送りばかりには頼れない。 いい加減どこかの飲食店でバイトを探さなくてはと、今度面接も入れてある。 「すまぬな、ここもバイトなのにかけ持ちをさせてしまって」 「元はといえばあの篁(たかむら)さんがいけないんですし、きっちり約束は守って貰いますよ」 私が拳を握れば閻魔ちゃんが豪快に笑う。 「はははは!そうじゃな!いや、あの日のことを思い出すと未だに笑えるのう」 あの日のこと。それは数年前に遡る。
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