第一章 ようこそ、地獄の閻魔庁へ

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「お待ちください」 横にある大きな御簾の中から聞こえた私の声に亡者は驚いてこちらを向いた。 私には前にある御簾など無いように彼がはっきりと見えているけれど、彼に私の姿は御簾に隠れて一切見えず、声も変えられているため男か女か年齢すらもわからないらしい。 「この者は、そんな自分では親や誰かをを殺しかねないと悩み、自死を選びました。 その死もなるべく迷惑を掛けぬよう配慮した上で。 どうぞ、その事もご配慮頂ければ」 亡者はあんな映像を見せられ既に諦めていたところを見知らぬ者にそんな言葉をかけられるとは思わなかったのか、頬には涙が流れている。 「親より子が先に死ぬのは罪だ」 大男の平坦で冷たい声が響く。 子は、親より先に亡くなった、それだけに罪に問われ、賽の河原というところに行かされる。 母親に産みの苦しみを与えたこと、生まれた後に育てる苦労をさせたこと、その恩に報いること無く先に死んだことが理由らしい。 どう考えても納得できる理由では無いけれど。
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