第二章 愛と欲望と衆合地獄

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********* 「明日夜7時に来客があるからその前に来られるか?」 今日の授業は早めに終わったのでそのまま事務所に行き指示された封筒の宛名を書いていたら、一之森先生に声をかけられ顔を上げる。 「はい、大丈夫です」 「相談に来るのが女性一人なんで、出来れば出雲にいてもらった方が助かる」 「思わずナンパしちゃうのを、私がいれば我慢できるんですか?」 私の軽口を、先生が鼻で笑った。 「何を勘違いしている?逆だ、逆。 こっちは初対面なのに突然結婚申し込まれたこともあるんだ。 この俺を相手によくそんなことが堂々と言えるものだと感心したけどな」 「わぁサイテーですね」 このイケメンである俺にお前ごときが、という不遜な態度を前にして、目が据わりながら棒読みで返す。 「俺みたいにイイ男は大変なんだよ、出雲にはわからんだろうがな」 「日頃遊んでいるんですね、サイテー」 「遊んで何が悪い」 胸を張るように当然のように返され、思わず絶句する。 きっと私のような平凡な人間には、イケメン弁護士様のイケメン故の苦労など想像もつかないし、関係ないし知りたくない。
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