第二章 愛と欲望と衆合地獄

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時間ぴったりに現れたのは帽子を目深に被って薄いストールを首に巻いた女性だった。 高そうなお洒落なバッグに綺麗な爪。 背も高く、きつい香水の匂いが一気に事務所に広がる。 応接に案内して彼女が椅子に座り帽子を外すと、ふわりと緩やかなウェーブの長い髪が広がって彼女は手でそれを整えた。 『あのドラマシリーズの女優さんだ!!!』 確か京都を舞台にした有名なサスペンスドラマのヒロインをされていた人だ。 お母さんより年齢は遙かに上のはずなのに、若々しいし色っぽいし実際見てもこんなに綺麗な人だなんて。 驚いたがそれを顔に出さずお茶を用意してから、少々お待ちくださいと応接のドアを閉めた。 名前が出てこないので今すぐ検索したいところだが事務所のPCをプライベートで使用することは禁止、仕事中にスマホをいじるのも原則禁止だし、先生に聞こうと興奮しながら先生の席に呼びに行く。 「せんせ!あの女性!」 奥でまだ他の仕事をしている先生のとこに小走りに行って小声で言うと、あん?というような面倒そうな顔をされた。 「だから言っただろう?失礼な対応してないだろうな?」 「し、してないです、多分」 先生が眉を寄せる。 「近藤先生の紹介で来てるんだ。今後もこういうことは多い。 顔に出さないようにする訓練でも鏡見てしておけ」 そう言うと席を立ち、スーツを軽く整えると応接室に入っていた。 名前は聞けなかったけどあとで聞こう。 あんな有名芸能人がどんな相談に来ているのだろうか。 私は気になって仕方が無かった。
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