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生い立ちと日々思うこと
・二十六歳
・工場勤務
・一人暮らし
・彼氏なし
今の私を表すならこんな箇条書きしか出てこない。
私の名前は根津谷さち。
金属を扱う工場で働いているしがない社会人。
転職を繰り返し、もう後はないという覚悟で今の会社にたどり着いた。
我ながら我慢弱く、働いていて少し嫌なところが目につくとすぐ転職を考える。
はじめて正社員になったときは、残業がイヤで転職した。その次は上司が嫌になって、その次は仕事内容について行けず……といった具合で、今の職場が四企業目になる。
転職を繰り返しどん底を味わった。
家賃は滞納するし無職の間は保険料やら税金類もろくに払えず遅れ遅れどうにか今の仕事に就いてから払い切った。
もうあんな思いはごめんだ。毎週のように支払いに消える給料は私を死んだほうが楽だとさえ思わせた。
まあ、全て自分が悪いのだけど。
なんだかんだ人生はなんとかなってしまうもので、今の私は最低限暮らしていける給料をもらいながら支払いにも追われず生きている。
そんな日々があったからだろうか。
今はありとあらゆることにありがたみを感じることができるようになった。
朝、眠いけれど目が覚めることに感謝。
視力は子どもの頃に比べて下がってしまったけれど景色を楽しめている。
仕事はだるいけれど働く場所があることは恵まれている。
お小遣いは少ないけれど日々暮らしていけることに幸せを感じる。
幸福の沸点が低くなったとでもいうのだろうか。今の私はわりと恵まれている。
小説を執筆するというささやかな幸せもあったりする。
ただ恵まれていると、そう思えるからこそなにかにのめり込むことが出来ない自分がいる。
たとえば、恋愛とか……。
そこで我に返る。
気がつけば、見慣れた建物の駐車場に慣れた手つきで車を停めていた。
ここがわたしの働く会社だ。
この話は、しがない社会人のしがない恋のお話。
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