繋がり

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「お母さーん!貴ちゃんの誕生日プレゼント、何が良いと思う〜?」 朝刊の四紙目に出そうとした手が止まる。 「沙耶に……とも、友達……」 「ううん。彼氏」 「カレー……ライス……」 娘の口から飛び出した初の言葉達に挙動不審になる。そんな母を中学生になったばかりの娘は笑った。 「もー、うちも子供じゃないんだから!で、プレゼント何がいいと思う?」 言っていることと目的が違う気が、と思ったが表情がキラキラ輝く彼女のことを見ていたら野暮なことだろう。 「何がって……お母さん、その子の好みとかしらないし……」 「一度会ったよ?ほら、入学式の〜」 沙耶の説明に思い当たる節がある。入学式当日、緊張しいで家族や知人以外に人見知り発動する彼女に声を掛けた男の子を。 「あ〜……。オレンジ色の短髪で眉毛にホクロがある……」 「一見、スポーツ少年!て感じの子なんだけどさ、実は料理人目指していて……家庭科で作ってくれたガトーショコラが絶品だったんだよね!」 涎を垂らしながらも幸福そうな顔をする娘。心も胃も掴まれたのなら仕方ない。 緑色のワンピースがヒラヒラと舞い、その場で顎に拳を付けて彼女は悩む。表情は真剣そのもので、だからこそなんて声を掛けたらいいか分からない。 彼女への誕生日プレゼントやテストで百点取った時のご褒美は割と娘自身が決めてくれている。クリスマスも『サンタって両親説だよね?』と急に言い出して私達をポカンとさせたこともあった。 (沙耶の初プレゼント。母親として一体何が……) 「うーん。あえてうちが好きなものをあげるとか?」 「それはやめた方がいいんじゃない?」 条件反射のように、否定しまい、気付いた時には言葉は外に出ていた。アドバイザーとして今時の子に流石に無かったのではなかろうか。 娘は私をじっと見つつ、ぽんと手をつく。 「そうだね!」 「え?」 「じゃあ、何がいいと思う?相手の好きな物だとなんかややこしい感じがする」 「そう……だね……。………貴ちゃんが喜びそうなものとか?」 「それって一緒じゃーん!」 なんだかんだ言って自分で決めたらしい。母親として力不足を感じていると、ある日の夜にその品を見せてくれた。 「体全体にも使えるんだって。女性用とは少し違うみたいだけど」 「どうして……これを?」 「貴ちゃん、休憩時間によくクリーム塗ってるから。だから肌がツヤツヤなんだよね〜。皮膚に合うか分からないけど、これだったら相手の好きそうな物だし、必要な物かなって!」 検索してみると、あの時の彼女が持っていた会社の製品だった。今では私も愛用しており、冬でも乾燥しらずだ。 赤いラッピングリボンにピンク色の袋。 「暖色系が好きなんだって〜。特にピンクとか大好きみたい。えへへ、キュート系だよね」 嬉々としてラッピングする沙耶は楽しそうだ。彼女の好みは寒色系でランドセルもその系統を強請られたものだ。 「喜んでくれるかな」 ふと不安がる娘の手を取る。私の手の大きさと変わらないものになってきた。子供の成長の早さが伺える。 「暖かい……。うん、大丈夫だよね!」 沙耶はきちんと自分で立ち上がることが出来る子だ。ただ、母として、人生の先輩として助け舟が必要な時はきちんと手を引いてあげたいと思っている。 「貴ちゃんって言ってるけど、どうして貴ちゃん?」 「名字なんだよ。貴ちゃんのお母さんが呼ばれていたあだ名みたいで、貴ちゃん本人も気に入ってて友達からもそう呼んで貰うようにしたとか」 「へえ〜、珍しいわね。……ところで、その子、なんていう子なの?」 好奇心からつい聞いてしまうと、沙耶は「え〜」と笑いながらも名前を教えてくれた。親子仲は割といい方だと思う。 『貴福って言うの、あたし。愛称・貴ちゃんだよ!』 「貴福(きふく)龍一郎君。格好良い名前だよね。あ、お母さんの龍虎(りゅうこ)とよく似てる!……なんで笑ってるの?」 どうやらプレゼントとは送り主と貰い手との絆を結ぶこともあるのだと、私は人生で初めて知ったのだ。
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