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3.天職
ぽんこつJKが本業として働いているファミリーレストランに、山高帽をかぶった紳士風のおじさんがやってきた。
「今日のおすすめは何かね?」
おじさんはズボンをはいていないくらいなので、よほどせっかちなヒトらしく、まだ席へ案内してもいないのに訊いてきた。
エロ動画をジャケ買いして失敗するタイプかもしれないと、ぽんこつJKは想像しつつ、
「本日のおすすめはカルボナーラでございます」
無料スマイルを振る舞わずに、自分の好物を答えると、
「なるほど。それなら、ハンバーグ定食を頼む」
おじさんは早漏に、もとい、早々にオーダーしてきた。
何のために本日のおすすめを訊いてきたのか、普通の店員ならば気になるところなのだろうが、ぽんこつJKの場合は、そんなことよりもむしろ、国際情勢やおじさんの息子の情勢のほうがよほど気になったので、その点については触れずにおいた。
「ライスとパンをお選びいただけますが、どちらにいたしましょう?」
「えっ? ライスとパンツ?」
おじさんはスマイルを押し付けてきた。
股間じゃなくてよかったと、普通のJKならば安堵したことだろうと想像したぽんこつJKは、
「どちらかお好きなほうをどうぞ」
おじさんの問いかけを無視してオーダーを促すと、
「無論、18歳なんで」
といった顔つきで、兄の会員証を使い、エロDVDをレンタルしようとしている男子高校生のように、
「無論、パンツで」
と、おじさんは毅然とした口調で答えた。
さすがは紳士風のおじさんだと、ぽんこつJKはおじさんのゆるみまくった顔面に感心の眼差しを向け、
「かしこまりました」
おじさんの専属メイドになったつもりで丁重に頭をさげた。
「ただいま、お席のほうにご案内いたします」
ぽんこつJKが店内を見まわし、空席を探していると、
「ああ、テイクオフで頼む」
堂々としたおじさんの声が背後から響いた。
振り返ると、おじさんは上衣を脱いでいて、既にパンツ一丁になっていた。
空へ飛び立つ準備なのか、おじさんは最寄りの空席まで駆けて行くと、赤いチェック柄のテーブルクロスを引きはがして、スーパーマンのマントのように首に巻き付けた。
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
天高く飛び立ってゆくおじさんを敬い、深々と頭を垂れたぽんこつJKは思った――
そうだ、メイド喫茶に転職しよう、と。
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