夕闇モラトリアム

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丘の上のベンチでお姉さんと一緒に過ごすのが、いつのまにか学校終わりのぼくの日課になっている。お姉さんはいつも寝ているか本を読んでいる。難しい言葉ばかりが並んだ本だ。高校生よりも年上の大学生だから難しい本も読むのだ。 お姉さんといるときぼくは小学校で勉強したことをお姉さんに教えてあげるか、一緒に本を読む。お姉さんは色々なことを聞いてくるし、色々なことを教えてくれる。 「今日は何の本を持ってきたんだい」 ぼくはランドセルから〝はじめてのABC〟という外国語の本を誇らしげに取り出した。外国の言葉なんてお姉さんも知らないと思って、自慢したくてお母さんに買ってもらった。 「少年は英語なんか勉強しているんだね、すごいね」 「これなんて書いてあるかわかるの?」 「わかるよ。えーびーしーだ」 「えーびーしー」 ぼくはお姉さんが言ったことを繰り返し口に出してみた。どうやらこれもお姉さんの知っていることらしい。少し残念だけど、やっぱりお姉さんはすごい、何でも知っている。 「外国には何で色々な言葉があるの?」 「少年と少年の友達は好きなことが違うだろう?」 「違う」 「それと同じだよ。昔の人たちは自分の好きな方法で話をしていたんだ。みんなが自分勝手に好きな方法で色々な言葉を使った。だから今、色々な言葉があるんだよ」 「そうなんだ。じゃあどれを選んでもいいの?」 「どれを選んでもいいよ。少年は自分が好きな言葉を探しなさい」 やっぱりお姉さんは物知りだ、さすがなだけある。
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