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夕闇モラトリアム
壁掛け時計の短い針が数字の3を指した。それと同時に帰りのチャイムがきんこんかんこんと学校の中を走り回る。ぼくは急いでランドセルに教科書を詰め込んで、教室を飛び出した。
今日もあそこに向かうのだ!小学校の裏側にある丘の上のベンチに!
丘を駆け上がると大きな空がぱーっと広がる。近くにここよりも高い建物はなく、あれだけ大きいと思っていた小学校も縮こまって大したことないんだなと思う。この空を見るといつも川の魚のことを考える。川の魚も海まで行ったら、この空のように大きな海にきっと驚くだろうなあ。ここのことを知らない小学校の友達はみんな川の魚だ。
でも、川の魚は海には行かないらしい。海に行くとしょっぱく美味しくなって人間に食べられてしまうからだ。
そう教えてくれたお姉さんは今日も丘の上のベンチでほくほくと眠っていた。
お姉さんの首はベンチからはみ出ていて、つやつやと伸びた長い髪が今にも地面に根っこをはりそうだ。閉じている目からは小学校の女の子よりもずっと長いまつげが綺麗に揃って上を向いている。涼しそうな服の隙間からは白い肌が顔をのぞかせ太陽の光をキラキラと浴びていた。そしていつも通りの大きなおっぱいがついている。
ぼくは気持ちよさそうに眠っているお姉さんを起こさないように、そっとベンチにランドセルを置いて、お姉さんの隣に座った。
「おはよう、山田少年」
おはよう、とお姉さんに返事をする。どうやらぼくの気配に気がついて起きてしまったようだ。体を起こしたお姉さんからはふわりと花の香りがした。
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