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受け継がれる意思/縊死
静かな道にパタパタと走る足音がこだまする。俺はトモちゃんの家から帰る途中だった。
もうすぐ5時のチャイムが鳴ってしまう。あのチャイムが鳴り終わるまでに家に帰らなければ、お母さんが怒りだす!しかも今日はやけに暗くなるのが早い。こんな日は説教の頭に「外もこんなに暗いのに!」と言う言葉がおまけで付いてくるだろう。
俺はオレンジ色のアスファルトに伸びる自分の影を追い越さんばかりに走った。
やがて右手に公園が見えた。住宅街の中にある、そこそこの広さの公園にはもう誰もいなかった。
「ここを突っ切ればもうすぐだ!」
俺は公園の入り口の、鉄の小鳥が留まっているポールを飛び越え、反対側の出口を目指して走る。その時、誰もいないと思っていたジャングルジムにまだ人がいたことに気付いた。
「なんだ?もうすぐチャイムが鳴るのに呑気なヤツ」
その子はジャングルジムに後ろ手にしがみ付いたまま動かない。何やってるんだろう。
まぁいいか、そう思い俺は通り過ぎようとした──が。
「え、浮いてね?」
よく見るとその子はジャングルジムに足も手もかけていなかった。まるでジャングルジムの外側に張り付くように浮いているのだ。
これには俺も気になって仕方なくなってしまった。その子の側に行ってみる。
「ねぇねぇそれどう──」
それ以上は言葉が出なかった。
そこには可愛い女の子が何本もの紐で括り付けられていたのだ。
首や手から紐が伸び、ジャングルジムのパイプに沿って括られている様はまるで囚われのお姫様といった感じだった。
長い睫毛が特徴的な閉じられた目は、もしもしと呼びかけたら開いてもおかしくは無さそうに思えたけれど、その可能性を首に巻かれた紐が強く否定していた。
「あ……あ……」
言葉が出ない。
有り得ない光景を目の当たりにし、俺の心の中を様々な感情が暴風雨の様に駆け巡っていた。
恐怖、悲しみ、絶望……憧れ?
その時、オレンジ色に染まった街中にチャイムが響き渡った。
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