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今日もあなたは来て下さらなかった。
まどろみの中で、意識の瞼が持ち上がり、見える光景はいつも決まっている。西のお山が真っ赤に揺れて、体の中心が熱くなる。
あなたはいつも仕事帰りに私のところに寄ってくれたわね。仕事の愚痴も多かったけれど、あなたの声を聞けるのがうれしかったの。
「もうすぐ寒くなるな、ここは風がつよいからなぁ」
撫でてくれたあなたの手がとても温かくて、ときおり吹いていた風も気にならなかったわ。
「冬の支度をしないとな」
ええ、そうね。ありがとう。
あなたが来てくれるだけで、温かい気持ちになるわ。
いくつもの声が通り過ぎ、いくつもの手と触れたけれど、私にはあなたの手と声が特別だったの。
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