あなたの手

1/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 今日もあなたは来て下さらなかった。  まどろみの中で、意識の瞼が持ち上がり、見える光景はいつも決まっている。西のお山が真っ赤に揺れて、体の中心が熱くなる。  あなたはいつも仕事帰りに私のところに寄ってくれたわね。仕事の愚痴も多かったけれど、あなたの声を聞けるのがうれしかったの。 「もうすぐ寒くなるな、ここは風がつよいからなぁ」  撫でてくれたあなたの手がとても温かくて、ときおり吹いていた風も気にならなかったわ。 「冬の支度をしないとな」  ええ、そうね。ありがとう。  あなたが来てくれるだけで、温かい気持ちになるわ。  いくつもの声が通り過ぎ、いくつもの手と触れたけれど、私にはあなたの手と声が特別だったの。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!